過去を描く

ハワイ観光の黄金時代が垣間見れるヴィンテージ絵葉書や旅行にまつわるエフェメラのコレクション

リンジー・ケセル
写真
ジョサイア・パターソン

古き良きワイキキに魅せられたスペンサー・トリーさんは、ポストカードや記念用印刷物の熱心なコレクターだ。史跡保護分野での経験を持つ法人向け旅行エージェントのトリーさんは、2012年にマイアミからホノルルに引っ越して以来、ハワイ旅行の記念アイテムを収集している。地元の入場券や切符などの収集の世界にはまり込み、幼いころからの収集熱に火がついたという彼はコレクションを通して、ハワイの豊かな歴史と建築について学んでいるという。「この数十年間のワイキキの移り変わりや観光地としてどのようなイメージで宣伝されてきたか、ポストカードを通してその歴史を目で見ることができます。そこには食事やビーチ、歌手やフラダンサーのショーを楽しむ人々の姿、そしてハワイの壮大な自然を満喫できるアクティビティが写っています」と話す。
トリーさんは主に絵葉書の収集家だが、ハワイがまだエキゾチックな旅行先だった1980年代以前のイメージを反映した懐かしさを感じさせるあらゆるアイテムを集めている。@fotoalohaのハンドルで知られるトリーさんは、インスタグラム上で掘り出し物を収集し、見やすく分類して紹介する。eBayやコレクタブルショーの展示品を調べあげ、希少なアイテムを落札する。彼は現在、3,000以上のアイテムを所有している。そのほとんどが絵葉書だが、中には今はなきリゾートのパンフレットや地図、雑誌、コダクロームのスライド、紙マッチ、メニュー、ラゲージタグといったものまである。彼のコレクションの中で一番古い1900年と1901年の2枚のポストカードには、現在のハワイ州立美術館の場所に建っていたハワイアンホテルのアールヌーヴォー様式の装飾とワイキキのランドマークがいくつも描かれている。もっとも珍しいものの一つに、1950年代最後のティキスタイルホテルだったワイキキアンホテルの石鹸がある。高層マンション建設のため、1996年に解体されたホテルだ。
トリーさんがとりわけ好んで集めているのがワイキキの台頭時にトレンドセッターとなったハレクラニホテル、ココナッツグローブホテル(現在のインペリアル・ハワイ・リゾートのある場所)、シーサイドホテル(ロイヤル・ハワイアン・ホテルに変わった)、アイナハウコート(現在のシェラトン・プリンセス・カイウラニホテル)の4つのホテルのポストカードとオリジナルの写真である。シンプルで職人技が光る建築や屋外パビリオン、木製のパーゴラといったこれらのバンガロースタイルのホテル独特のデザインは、1910年代から1930年代後半にかけてのワイキキの街並み全体に影響を与えた。やがて第二次世界大戦後の観光客の大量流入と近代建築のトレンドの変化によって、この時代のコテージスタイルの宿泊施設は時代遅れになっていった。
トリーさんの貴重なコレクションのひとつに、40年代後半から50年代初頭のワイキキホテルの魅力と優雅さを思い出させるハレクラニホテルのパンフレットがある。ハイボールを手に夕暮れ時の社交を楽しむ笑顔のカップルの映る表紙の写真には「歴史と風格のあるダイヤモンドヘッドを背景に、カクテルタイムの涼しい水辺の芝生で伝統的なハレクラニのサービスを楽しむゲスト」 という文章が添えられている。1917年にカリアロードとルーワーズ通りの角にオープンしたハレクラニは、個人事業主が所有・運営したハワイで最初のゲストハウスのひとつであり、そのうち今も営業している唯一のホテルだ。
トリーさんは週3回のインスタグラムの投稿で、複数の掘り出し物に面白い共通点を見つけて楽しんでいる。その中に、ハレクラニホテルのコーヒーショップのベランダの酷似する2枚の写真を使った1950年代のポストカードがある。同じ日にアーヴィン・ローゼン氏が撮影した写真を異なるポストカードメーカーが起用したものだ。別の投稿では、1952年に撮影されたモアナサーフライダーホテルの同じ写真を使ったパンアメリカン航空のポストカード、ベルシステムのチラシ、そしてジグソーパズルといった3種類のアイテムが紹介されている。
トリーさんのコレクションにあるココナッツグローブのパンフレットを見れば、観光産業が急成長するにつれ、旅行者に訴求するハワイのイメージが激変したことが分かる。50年代半ばのパンフレットの表紙には腕にレイをかけて旅行者を迎えるビキニの女性と眩しいビーチの風景が描かれている。それ以前の広告はもう少し落ち着いた雰
囲気で、パンフレットは若い中流階級層にアピールする「新しいワイキキ」をテーマに「究極のリラクゼーションと心の解放」、そして「清潔さ、丁重なおもてなし、便利さと快適さで勝る場所のないハワイ」と謳っている。
トリーさんの珍しいポストカードは、冒険を求める世界中の人々を独特の魔力で魅了した時代のハワイにタイムスリップさせてくれる。@fotoalohaのインスタグラムには、ハレクラニホテルのトロピカルガーデンでくつろぎ、一本の赤いフラワーレイを愛でるハネムーンカップルの映った1964年のポストカードの写真が載っている。裏にはメアリー・ベル&ノーベルトという差出人のサインが入っていて「ここは素晴らしい場所だ。ジェット機のフライトも最高だった。これが現実だなんて信じられないほどだ」と書かれている。このポストカードの両面の写真をあえてハッシュタグとナレーションなしで投稿したトリーさんは言う。「この絵葉書の受取人と同じ気持ちを味わって欲しいんだ。あとはディテールが物語っているからね」。

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コレクターの珍しいポストカードは、観光地となって間もない初期のハワイへと誘ってくれるポータルだ。

トリーさんの貴重なコレクションのひとつに、40年代後半から50年代初頭のワイキキホテルの魅力と優雅さを思い出させるハレクラニホテルのパンフレットがある。

トリーさんがワイキキの台頭時にトレンドセッターだったという4つのホテルのうち、ハレクラニは現在も営業している唯一のホテルだ。

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