フィルム時代の再来

1930年代に発明された湿板コロジオンは、最も手間のかかる古典的な写真技法のひとつ。
ケニヤッタ・ケレチ氏は、このレトロな技法で肖像写真を撮影する数少ないハワイの写真家だ。

ナズ・カワカミ
肖像写真
ケニヤッタ・ケレチ
写真
クリス・ローラー

写真フィルムの形式は通常、フィルムの大きさを指す。最も一般的なのが、35mm判だ。その次が中判の120フィルム。続いて、4×5インチの大判フィルム、そして最後が8×10インチで、これも大判と呼ばれている。
フォーマットが大きいほど、撮影の難易度も高くなる。シートと呼ばれる大判フィルムを使った撮影では、フィルムの大きさと潜在的な変数の多さにより、カメラ設定の微調整や単にレンズの焦点を合わせることすら、非常に手間のかかるプロセスとなる。チャレンジ精神のある人は、フィルムの下準備と複雑な工程が必要な湿板写真と呼ばれる8×10インチの大判フィルムを使った古典的な撮影技法を試してみるのもいいだろう。
この技法を使って画像を得るのは難しく、より多くの時間を要するため、湿板写真を撮影する写真家は極めて少ない。ケニヤッタ・ケレチ氏は、このレトロな8×10湿板法を追求する、ホノルルで唯一の写真家だ。
フィルム写真の魅力に惹かれたケレチ氏は、この独特なぼけ感のある写真を追求するようになり、2015年以来、ハワイの湿板写真の保存に努めている。以来、彼はコロジオン湿板法で、友人や家族、彼が尊敬する人物を撮影し、彼の会社のマナクロームでは、この技法を使ったコマーシャル撮影も行っている。
コロジオン湿板法による撮影では、厳密な作業工程を限られた時間内に処理する必要がある。感光材料の主成分であるコロジオンの感度は、時間がたつほどに劣化し、わずか20分で使用できなくなる。そのため、全ての薬品を現場で混ぜ合わせる必要があり、ガラス板に塗った薬品が乾くまでに撮影を終えなければならない。
現場の暗室で、ケレチ氏はまず、写真にほこりや残留物が映らないよう、ガラス板の表面を綺麗に拭き取る。次に、ヨウ化物、臭化物、エーテル、アルコールを混ぜた溶液をガラス板に塗布し、感光剤の硝酸銀溶液に浸す。最後に、ネガとなったガラス板を遮光ボックスに入れて準備完了だ。
次に、カメラの設定を調整し、被写体の光の量や空気中の水蒸気の量といったあらゆる変数を考慮した上で、湿板の入った箱をカメラに取り付け、被写体を感光剤に露出させて、撮影に取り掛かる。露光が済んだ箱は、暗室に戻し、ここからが現像作業となる。光の露出が少ない部分の薬剤を硬化させてガラス板に付着させ、露出のあった部分を洗い流すと、ポジ画像が現れる。紙に糊で絵を描き、ラメをふりかけると、糊のついていない部分の粉が落ちて、絵が現れるのと同じ仕組みだ。
ケレチ氏は、その難易度の高さゆえに この技法に意欲を掻き立てられるという。「間違うたびに、学んでいます。今では、どんなことが起こっても、ほとんどの問題に対処できるようになりました。そうやって挑戦し続けることに意味があるんです」という彼は、雲がかかって辺りが暗くなっても、 状況に応じて臨機応変に作業の手順を変えるなど、 予想外の問題も解決するコツを心得ている。
自身の文化への理解と繋がりを深めるための手段として、湿板写真を用いるケレチ氏は、 「マナクロームは、ネイティブハワイアンとハワイ文化の継承者を撮影することを目的に掲げています。20代の間に何か意義のあることをしたくて、この湿板写真を使って面白いことができればと思ったのがきっかけです。ネイティブハワイアンの人々やハワイ文化の継承者と話をすることで、彼からから学ぶ機会を得られるのと同時に、彼らのイメージを保護し、保存するという大切な使命を担っています」と語る。
ケレチ氏が撮影する写真は、どれも新鮮で、個性的な苦労の結晶だ。携帯電話の画面やプリントで自分の写真を見慣れている人も、画像が目の前で一瞬にして現れる瞬間には、なんとも言えない感動を覚えるという。「その瞬間を見て、驚かない人はいません。だれもが笑顔になるんです」と彼は言う。
ここ10年で衰退の一途をたどり、一時は生産の継続が危ぶまれた一般消費者向けのフィルムも、最近では、あらゆるサイズやスピード、フォーマットの乳剤ベースの写真が復活しつつあり、コダックアラリスやハーモンテクノロジーズといったフィルム製造会社の売り上げが大きな伸びをみせている。
面白いことに、フィルム写真を救ったのは、フィルムに忠実であり続けたシニア世代の写真家だけでなく、フィルム時代を必ずしも知らない15歳から35歳の若者世代からの圧倒的な支持だった。フィルム写真が醸し出す独特のニュアンスを高く評価している彼らは、アナログレコードの生産をサポートするレコード愛好家と同じように、消滅の危機にある芸術表現のメディアを保存し、永続させることに価値を見出しているのだ。ケレチ氏をはじめ、フィルム写真愛好家なら誰もが知っている唯一無二の作品を生む喜び、そして形のあるリアルな画像がもたらす感動によって、フィルム写真はこれまでも、そしてこれからも生き続けるであろう。

シェアする:

1930年代に発明された湿板コロジオンは、最も手間のかかる古典的な写真技法のひとつ。
ケニヤッタ・ケレチ氏は、このレトロな技法で肖像写真を撮影する数少ないハワイの写真家だ。

Analog Times

Season 7 Episode 1
Watch Episode

Fukumitsu ‘ohana.

右ページ:モニース一家

写真スタジオのマナクロームを経営するケニヤッタ・ケレチ氏は、レトロな技法で肖像写真を撮影する写真家だ。ネイティブハワイアンや文化継承者の撮影を専門とする。

写真スタジオのマナクロームを経営するケニヤッタ・ケレチ氏は、レトロな技法で肖像写真を撮影する写真家だ。ネイティブハワイアンや文化継承者の撮影を専門とする。

The McDiarmid ‘Ohana.

Puamana.

Reanna.

フィルム時代の再来

1930年代に発明された湿板コロジオンは、最も手間のかかる古典的な写真技法のひとつ。
ケニヤッタ・ケレチ氏は、このレトロな技法で肖像写真を撮影する数少ないハワイの写真家だ。

ナズ・カワカミ
肖像写真
ケニヤッタ・ケレチ
写真
クリス・ローラー
シェアする:

1930年代に発明された湿板コロジオンは、最も手間のかかる古典的な写真技法のひとつ。
ケニヤッタ・ケレチ氏は、このレトロな技法で肖像写真を撮影する数少ないハワイの写真家だ。

Analog Times

Season 7 Episode 1
Watch Episode

写真フィルムの形式は通常、フィルムの大きさを指す。最も一般的なのが、35mm判だ。その次が中判の120フィルム。続いて、4×5インチの大判フィルム、そして最後が8×10インチで、これも大判と呼ばれている。
フォーマットが大きいほど、撮影の難易度も高くなる。シートと呼ばれる大判フィルムを使った撮影では、フィルムの大きさと潜在的な変数の多さにより、カメラ設定の微調整や単にレンズの焦点を合わせることすら、非常に手間のかかるプロセスとなる。チャレンジ精神のある人は、フィルムの下準備と複雑な工程が必要な湿板写真と呼ばれる8×10インチの大判フィルムを使った古典的な撮影技法を試してみるのもいいだろう。
この技法を使って画像を得るのは難しく、より多くの時間を要するため、湿板写真を撮影する写真家は極めて少ない。ケニヤッタ・ケレチ氏は、このレトロな8×10湿板法を追求する、ホノルルで唯一の写真家だ。
フィルム写真の魅力に惹かれたケレチ氏は、この独特なぼけ感のある写真を追求するようになり、2015年以来、ハワイの湿板写真の保存に努めている。以来、彼はコロジオン湿板法で、友人や家族、彼が尊敬する人物を撮影し、彼の会社のマナクロームでは、この技法を使ったコマーシャル撮影も行っている。
コロジオン湿板法による撮影では、厳密な作業工程を限られた時間内に処理する必要がある。感光材料の主成分であるコロジオンの感度は、時間がたつほどに劣化し、わずか20分で使用できなくなる。そのため、全ての薬品を現場で混ぜ合わせる必要があり、ガラス板に塗った薬品が乾くまでに撮影を終えなければならない。
現場の暗室で、ケレチ氏はまず、写真にほこりや残留物が映らないよう、ガラス板の表面を綺麗に拭き取る。次に、ヨウ化物、臭化物、エーテル、アルコールを混ぜた溶液をガラス板に塗布し、感光剤の硝酸銀溶液に浸す。最後に、ネガとなったガラス板を遮光ボックスに入れて準備完了だ。
次に、カメラの設定を調整し、被写体の光の量や空気中の水蒸気の量といったあらゆる変数を考慮した上で、湿板の入った箱をカメラに取り付け、被写体を感光剤に露出させて、撮影に取り掛かる。露光が済んだ箱は、暗室に戻し、ここからが現像作業となる。光の露出が少ない部分の薬剤を硬化させてガラス板に付着させ、露出のあった部分を洗い流すと、ポジ画像が現れる。紙に糊で絵を描き、ラメをふりかけると、糊のついていない部分の粉が落ちて、絵が現れるのと同じ仕組みだ。
ケレチ氏は、その難易度の高さゆえに この技法に意欲を掻き立てられるという。「間違うたびに、学んでいます。今では、どんなことが起こっても、ほとんどの問題に対処できるようになりました。そうやって挑戦し続けることに意味があるんです」という彼は、雲がかかって辺りが暗くなっても、 状況に応じて臨機応変に作業の手順を変えるなど、 予想外の問題も解決するコツを心得ている。
自身の文化への理解と繋がりを深めるための手段として、湿板写真を用いるケレチ氏は、 「マナクロームは、ネイティブハワイアンとハワイ文化の継承者を撮影することを目的に掲げています。20代の間に何か意義のあることをしたくて、この湿板写真を使って面白いことができればと思ったのがきっかけです。ネイティブハワイアンの人々やハワイ文化の継承者と話をすることで、彼からから学ぶ機会を得られるのと同時に、彼らのイメージを保護し、保存するという大切な使命を担っています」と語る。
ケレチ氏が撮影する写真は、どれも新鮮で、個性的な苦労の結晶だ。携帯電話の画面やプリントで自分の写真を見慣れている人も、画像が目の前で一瞬にして現れる瞬間には、なんとも言えない感動を覚えるという。「その瞬間を見て、驚かない人はいません。だれもが笑顔になるんです」と彼は言う。
ここ10年で衰退の一途をたどり、一時は生産の継続が危ぶまれた一般消費者向けのフィルムも、最近では、あらゆるサイズやスピード、フォーマットの乳剤ベースの写真が復活しつつあり、コダックアラリスやハーモンテクノロジーズといったフィルム製造会社の売り上げが大きな伸びをみせている。
面白いことに、フィルム写真を救ったのは、フィルムに忠実であり続けたシニア世代の写真家だけでなく、フィルム時代を必ずしも知らない15歳から35歳の若者世代からの圧倒的な支持だった。フィルム写真が醸し出す独特のニュアンスを高く評価している彼らは、アナログレコードの生産をサポートするレコード愛好家と同じように、消滅の危機にある芸術表現のメディアを保存し、永続させることに価値を見出しているのだ。ケレチ氏をはじめ、フィルム写真愛好家なら誰もが知っている唯一無二の作品を生む喜び、そして形のあるリアルな画像がもたらす感動によって、フィルム写真はこれまでも、そしてこれからも生き続けるであろう。

Fukumitsu ‘ohana.

右ページ:モニース一家

写真スタジオのマナクロームを経営するケニヤッタ・ケレチ氏は、レトロな技法で肖像写真を撮影する写真家だ。ネイティブハワイアンや文化継承者の撮影を専門とする。

写真スタジオのマナクロームを経営するケニヤッタ・ケレチ氏は、レトロな技法で肖像写真を撮影する写真家だ。ネイティブハワイアンや文化継承者の撮影を専門とする。

The McDiarmid ‘Ohana.

Puamana.

Reanna.

シェアする:
その他のストーリー