Hand holding a small brown leaf against tree folliage and the sky
ローレン・マクナリー
写真
ジョン・フック
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大きな木

Older woman in a hat standing in a forest

A certified forest therapy guide explains forest bathing, the art and practice of slowing down.

マノア渓谷にあるライオン樹木園の集合場所に着くと、森林浴の専門家のフィリス・ルックさんが彼女のオフィスと呼ぶ、ビジターセンターの 近くにある木に覆われた東屋へと案内してくれた。森林浴は、森の空気 を浴び、樹木に接することで、心身にもたらす癒し効果リラクゼーション効果と精神的な癒しをもたらす。

Large leaves in a forest

ルックさんは、ハワイで最初かつ唯一の認定森林セラピーガイドだ。彼女以外にも、自然の持つ癒しのパワーを信じる人は多い。最近退職したルックさんは、2012年の設立以来、46か国で700名以上の森林セラピーガイドを認定している「自然と森林のセラピーガイド&プログラム協会」でトレーニングを受けた後、「フォレスト・ベイジング・ハワイ」という名の会社を立ち上げた。ルックさんは、餌を探す鳥たちが、草の中の虫をついばんでいる日当たりの良い芝生の上を歩きながら、自らはあくまでもガイドであって、セラピストや科学者ではないと説明する。 森林浴の効果を宣伝するのが目的ではないと言うが、長年の研究によれば森林浴の多くの健康効果が実証されている。

Woman looking up standing in a forest
Woman with a backpack walking through a forest clearing

フィリス・ルックさんは、ハワイで初かつ唯一の認定森林セラピーガイドであるかもしれない。
「全てを忘れ、頭を空っぽにして、脳を休ませてあげてください」

Two hands holding a delicate dried leaf

森林浴は、自然は知覚的で神聖なものであるという昔からの考えに基づいている。

森林浴という行為は、第二次世界大戦後の急速な経済成長における日本に見られた生産性重視による社会的な歪みへの対処法として、1980年代から一般的になった。日本政府は、慢性病の増加や過労死のような社会現象への対策として、1982年に林野庁長官の秋山智英氏の提唱で、「森林浴」を促進する公衆衛生キャンペーンを展開した。現在、日本には、森林セラピーに適した森として政府認定されている森林が全国約100箇所にある。人間は進化の歴史の大半を過ごしてきた自然によって、生理的にも心理的にも癒されるという考え方に基づいた森林浴をはじめとする自然療法は、現代の都市生活のストレスや精神の解消法として世界的に人気が高まっている。

Close up of the viens on the back of a leaf
Hand holding a small brown leaf against tree folliage and the sky
Picnic blanket with a spread of fruit, crackers, and tea

ホノルルの植物園での森林浴のツアーは、心地よい緑の中でのティーセレモニーで締めくくられる。

「ゆとりが大切なんです」とルックさんは、森の散歩の途中で行う最初のエクササイズをするため、芝生の丘の日陰のある静かな場所で足を止めた。彼女はこのエクササイズを「招待状」と呼ぶ。その中の「存在の喜び」は、五感を研ぎ澄ますことで、今という瞬間に意識を集中させるエクササイズだ。彼女は、すぼめた唇の隙間から空気をすすりながら、「草のソムリエになったつもりで、草の中のオイルを味わうように、口の中で回してみてください。鼻を地面に近づけて乾燥した葉や砂利の中に秘められた香りを吸い込んでください。その中の何かをいいなと思ったら、その喜びを感じたまま、身を任せてください」と言う。

刈り取られた草の匂い、肌に当たるそよ風、遠くの小川のせせらぎといった自然から得られる喜びは、頭の中で起こっているだけではない。研究者たちは、自然の中で週に2時間以上過ごした人体に、血圧の低下やストレスホルモンであるコルチゾールの低下、免疫機能や認知 機能の改善といった多くの生理学的変化が現れることを発見した。世界でも有数の森林国である日本では、木に接することの効果効能、特にフィトンチッドによる疾病の治療効果の研究が盛んだ。有害な微生物の活動を抑制する作用を持つ、樹木や植物が発散するこの化学物質が、ヒトのがんと闘う細胞を活性化させることも明らかになっている。ある研究では、自然の中で3日間過ごすと、フィトンチッドの抗がん効果が最大30日間持続することがわかった。

Tree folliage with a gap showing the blue sky
Woman in a hat looking at the trees in a forest

欧米では比較的新しいコンセプトだが、いわゆる森林浴と呼ばれる行為は、1980年代から行われてきた。

古来から自然界に存在するスピリチュアルな力を信じる神道の発祥国である日本では、森林浴を楽しむ多くの人が自然を知覚的で神聖なものと捉えている。それは海外の森林セラピーガイドにも共通する 考え方だ。「大抵、葉の裏側にストーリーが隠れているんです」と、近くのシダの葉脈を見せながら「葉も見せたがっていて、観察されるとくすぐ ったそうにしているのだと想像してみてください」とルックさんは言う。

私たちは砂利道に沿って黙々と坂をのぼった。つややかな葉の表面に反射する日の光がまばゆい。鳥が近くに飛んできて、木のどこかの止まり木からさえずっている。ルックさんがビーハイブジンジャーの茂った場所に私たちを呼び寄せ、その鮮やかな赤い苞を揺すった。すると苞葉からよい香りのする水が飛び散り、私の手を濡らした。そんな彼女の遊び心に意表を突かれていると「ガイドは遊び相手みたいなものよ。『これを試して』とか『やってみよう!』って誰かが言ってくれるとワクワクするでしょう?」とルックさんは笑った。

森林浴にガイドは必要ないとルックさんは言うが、自分の休息とリラクゼーションに専念してくれる人に案内してもらう森林浴には価値がある。実際、ガイドがいれば、自分たちは時間を気にすることなくリラックスできる。私たちのガイドは、森林浴を締めくくるお茶の準備をしながら休息の「休」という漢字が、人が木のそばで身体を休めていること に由来するのだと教えてくれた。「時間とは本来、柔軟なものです。時間を忘れ、心を解放することで、脳が安らぎを得られるのです」。

ローレン・マクナリー
写真
ジョン・フック
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大きな木

Older woman in a hat standing in a forest

心にゆとりを取り戻す森林浴のパワーを伝える森林セラピーガイド

マノア渓谷にあるライオン樹木園の集合場所に着くと、森林浴の専門家のフィリス・ルックさんが彼女のオフィスと呼ぶ、ビジターセンターの 近くにある木に覆われた東屋へと案内してくれた。森林浴は、森の空気 を浴び、樹木に接することで、心身にもたらす癒し効果リラクゼーション効果と精神的な癒しをもたらす。

Large leaves in a forest

ルックさんは、ハワイで最初かつ唯一の認定森林セラピーガイドだ。彼女以外にも、自然の持つ癒しのパワーを信じる人は多い。最近退職したルックさんは、2012年の設立以来、46か国で700名以上の森林セラピーガイドを認定している「自然と森林のセラピーガイド&プログラム協会」でトレーニングを受けた後、「フォレスト・ベイジング・ハワイ」という名の会社を立ち上げた。ルックさんは、餌を探す鳥たちが、草の中の虫をついばんでいる日当たりの良い芝生の上を歩きながら、自らはあくまでもガイドであって、セラピストや科学者ではないと説明する。 森林浴の効果を宣伝するのが目的ではないと言うが、長年の研究によれば森林浴の多くの健康効果が実証されている。

Woman looking up standing in a forest
Woman with a backpack walking through a forest clearing
Two hands holding a delicate dried leaf
Forest bathing traditionally operates with the understanding of nature as both sentient and sacred.

森林浴という行為は、第二次世界大戦後の急速な経済成長における日本に見られた生産性重視による社会的な歪みへの対処法として、1980年代から一般的になった。日本政府は、慢性病の増加や過労死のような社会現象への対策として、1982年に林野庁長官の秋山智英氏の提唱で、「森林浴」を促進する公衆衛生キャンペーンを展開した。現在、日本には、森林セラピーに適した森として政府認定されている森林が全国約100箇所にある。人間は進化の歴史の大半を過ごしてきた自然によって、生理的にも心理的にも癒されるという考え方に基づいた森林浴をはじめとする自然療法は、現代の都市生活のストレスや精神の解消法として世界的に人気が高まっている。

Close up of the viens on the back of a leaf
Hand holding a small brown leaf against tree folliage and the sky
Picnic blanket with a spread of fruit, crackers, and tea
A tea ceremony closes the writer's forest bathing experience at a garden in Honolulu.

「ゆとりが大切なんです」とルックさんは、森の散歩の途中で行う最初のエクササイズをするため、芝生の丘の日陰のある静かな場所で足を止めた。彼女はこのエクササイズを「招待状」と呼ぶ。その中の「存在の喜び」は、五感を研ぎ澄ますことで、今という瞬間に意識を集中させるエクササイズだ。彼女は、すぼめた唇の隙間から空気をすすりながら、「草のソムリエになったつもりで、草の中のオイルを味わうように、 口の中で回してみてください。鼻を地面に近づけて乾燥した葉や砂利の中に秘められた香りを吸い込んでください。その中の何かをいいなと思ったら、その喜びを感じたまま、身を任せてください」と言う。

刈り取られた草の匂い、肌に当たるそよ風、遠くの小川のせせらぎといった自然から得られる喜びは、頭の中で起こっているだけではない。研究者たちは、自然の中で週に2時間以上過ごした人体に、血圧の低下やストレスホルモンであるコルチゾールの低下、免疫機能や認知機能の改善といった多くの生理学的変化が現れることを発見した。世界でも有数の森林国である日本では、木に接することの効果効能、特にフィトンチッドによる疾病の治療効果の研究が盛んだ。有害な微生物の活動を抑制する作用を持つ、樹木や植物が発散するこの化学物質が、ヒトのがんと闘う細胞を活性化させることも明らかになっている。ある研究では、自然の中で3日間過ごすと、フィトンチッドの抗がん効果が最大30日間持続することがわかった。

Tree folliage with a gap showing the blue sky
Woman in a hat looking at the trees in a forest

古来から自然界に存在するスピリチュアルな力を信じる神道の発祥国である日本では、森林浴を楽しむ多くの人が自然を知覚的で神聖なものと捉えている。それは海外の森林セラピーガイドにも共通する考え方だ。「大抵、葉の裏側にストーリーが隠れているんです」と、近くのシダの葉脈を見せながら「葉も見せたがっていて、観察されるとくすぐったそうにしているのだと想像してみてください」とルックさんは言う。

私たちは砂利道に沿って黙々と坂をのぼった。つややかな葉の表面に反射する日の光がまばゆい。鳥が近くに飛んできて、木のどこかの止まり木からさえずっている。ルックさんがビーハイブジンジャーの茂った場所に私たちを呼び寄せ、その鮮やかな赤い苞を揺すった。すると苞葉からよい香りのする水が飛び散り、私の手を濡らした。そんな彼女の遊び心に意表を突かれていると「ガイドは遊び相手みたいなものよ。『これを試して』とか『やってみよう!』って誰かが言ってくれるとワクワクす るでしょう?」とルックさんは笑った。

森林浴にガイドは必要ないとルックさんは言うが、自分の休息とリラクゼーションに専念してくれる人に案内してもらう森林浴には価値がある。実際、ガイドがいれば、自分たちは時間を気にすることなくリラックスできる。私たちのガイドは、森林浴を締めくくるお茶の準備をしな がら休息の「休」という漢字が、人が木のそばで身体を休めていること に由来するのだと教えてくれた。「時間とは本来、柔軟なものです。時間を忘れ、心を解放することで、脳が安らぎを得られるのです」。

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