Patricia Lei Murray threading through her quilt.
針と糸の芸術

職人が一針一針手で縫い上げる美しいハワイアンキルトは豊かな物語に満ちたハワイの歴史を今に伝えている

ジェイド・スノー
写真
ジョン・フック

ハワイアンキルト作りで何より大切なのは、思いを込めて一針一針丁寧 に縫うことだ。完成したキルトには全て、作り手の意図が込められた名 前が付けられる。キルト職人のパトリシア・レイマレーさんは、キルトの 命名には作る作業と同じくらい重要な意味があるという。40年以上に わたってキルト製作を続けているレイマレーさんは「、図案が決まると、 まずは瞑想から始めるの。静かに祈りを捧げて深呼吸しながら生地を 裁断し、切ったパターンを折ったまま布のピコ(中央)に置く。その瞬間、 キルトに命が宿るのよ」と説明する。キルト製作には何年もの歳月がか かる。小さな作品でも、何千本もの複雑なステッチを全て手で縫うため だ。その過程で、作り手とキルトの間に絆が生まれ、一針ごとに作り手の マナがキルトに縫い込まれていく。

宣教師がハワイにキルティングの技術を持ち込んだ19世紀の終 わり頃、ハワイアンはすでにテキスタイルアートを楽しんでいた。ハワイ 伝統の布は、ワウケ(桑の木の一種)の樹皮を打って柔らかくなめし、オ ヘ・カパラと呼ばれる手彫りの竹製スタンプを使って捺染したもので、
「カパ」と呼ばれる。こうやって作られた繊細なタペストリーは、衣服から ベッドカバー、死装束まであらゆるものに使われていた。先住民の服装 がビクトリア様式のファッションに取って代わられるようになると、伝統 的なカパ・モエ(ベッドカバー)は、ハワイ固有の植物の葉をモチーフに した厚手のハワイアンキルトに姿を変えていった。

「ハワイアンの女性たちは、自然をより大きなスケールで家に取 り入れたいと考え、きっと本能的にその方法を知っていたのね」。レイマ レーさんは、ある女性が太陽の光が注ぐ中、ウル(ブレッドフルーツ)の 木の下にシーツを広げた際に、葉と果実がシーツに落とした影の美し さに魅了され、ハワイアンキルトの最初のパターンの「ウル」が生まれた、 という彼女のお気に入りのハワイアンキルトの成り立ちのストーリーを 教えてくれた。この植物はポリネシア全体の主食として重要であるだけ でなく、ハワイ語の単語「ʻulu」は、豊かさと成長を意味するハワイ文化 にとって象徴的なものである。

キルト作りは時にして孤独な作業であるが、作り手同士の間に 育まれる絆も楽しみの一つだ。当時、若い母親だったレイマレーさんは、 カメハメハスクールズのカパラマ校で受講したキルティングコースがき っかけでハワイアンキルトの世界に入った「。すべてのキルトには物語が あってね。初代キルターのクプナから、キルトの一枚一枚には作り手の マナ(力)が込められ、パターンを繰り返すごとにアロハの心が少しずつ 刻み込まれていくのだと教わったものよ」。レイマレーさんは天性の才 能が開花し、まもなくキルト製作の注文を受けるようになった。ハワイ 王朝の転覆によって降ろされたイオラニ宮殿のハワイ王国旗を象徴す る「クウ・ハエ・アロハ・マウ(私の最愛の旗よ永遠に)」と名付けられた 作品もその一つだ。当時を生きたハワイアンの女性を称えるこの貴重な キルトは、ハワイ王朝が歩んだ激動の歴史とハワイの人々の強さや団結 の象徴としてハワイ人問題事務局(OHA)に飾られている。

2013年、レイマレーさんは、ホノルル美術館でキルトのコースを 教え始めた。そこで最初の教え子となったキルターのカナニ・レップンさ んと出会った。「精神を集中する作業のキルト作りは、瞑想と同じような 効果があります。キルトを作るときは、部屋の中で何時間も座ったまま 静かに一人で作業することもあれば、姉妹のようなキルター仲間たちと 一緒に縫いながらアロハを分かち合うこともあります」とレップンさん。 キルターのパット・ゴアラングトンさん(30歳)は、キルト職人のアルテ ア・ポアカラニ・セラオさんと夫のジョン・セラオさんが運営する「ザ・ポ アカラニ&カンパニー・ハワイ・キルティング・ギルド」のメンバーだ。ゴ アラングトンさんは、自宅で毎日キルト作りに10時間ほど費やし、毎週 開催されるポアカラニの集まりで仲間と作品を共有することを楽しみ にしている「。キルトのおかげで創造力が豊かになりました。モダンな要 素をデザインに取り入れて楽しんでいます。自分が気に入り、他の人に も喜んでもらえるデザインに仕上がった時は何より幸せです」と彼女は 言う。

キルティング技術においては伝統に忠実なキルターたちも、その 芸術表現は実に様々で、近代的な用途や新しいアイディアを柔軟に取 り入れて楽しんでいる。レイマレーさんは、ココムーンという子供服ブラ ンドのオーナーのアンバー・チバウトさんに依頼され、竹製の布ででき た優しい肌触りのベビー毛布にプリントするキルトのデザインを考案し た。「ハワイアンキルトの型だけを真似するのではなく、ベテランのキル ト職人の力を借りて、愛や伝統、思いやりを感じさせる本物のハワイア ンキルトをデザインしたかったのです」とチバウトさんは話す。レイマレーさんのおかげで、丁寧に愛情を込めて作られたキルトと同じようにス テッチの一本一本まで詳細に再現された手作り感溢れるプリントが生 まれた。成長していく赤ちゃんや家族を象徴するウルのデザインは、心 温まるハワイアンキルトの伝統そのものだ。

「ハワイアンキルトを上手に作る秘訣は、その過程を楽しむこと なの」。レイマレーさんはキルト作りを通して、ハワイアンキルトの伝統、 そして丹念な仕事から生まれる芸術と絆をキルト仲間と共有できるこ とに喜びを感じている。一方、ポカラニ・アンド・カンパニーのウェブサ イトやインスタグラムページ(@hawaiianquiltsbypat)で作品を紹介 することで交流を図っているゴアラングトンさんは「、キルト作りを実践 するようになってハワイアンキルトへの深い感謝の気持ちが生まれまし た。キルトの感触、それに込められた物語、キルト作りを通して生まれた 人との繋がりはどれも素晴らしいものです。それは私の人生を満たして くれています」と語る。

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"Allen Okina Ulu" embroiered onto a traditional Hawaiian quilt.

一枚のキルトには何千 本もの繊細なステッチ が手で縫い込まれるた め、完成するのに何年も かかる。

針と糸の芸術

シーズン 4 エピソード 4
エピソードを見る
Pat Gorelangton and Patricia Lei Murray quilting together.

キルト作りは生地を繋ぎ合わせるだけでなく、作り手同士の親密な絆 をも繋いでいる。上:パット・ゴアラングトンさんとパトリシア・レイマレ ーさん

Patricia Lei Murray threading through her quilt.

裁縫やハワイ文化についての本 を何冊も書いている著者のパト リシア・レイマレーさんにとって キルト作りは瞑想のようなもの だという。

キルターのカナニ・レップンさんは、ステッチを縫うごとに 心の迷いが消えていくという。

Women quilting hawaiian print patterns.

「初期のキルターのクプナから、キルトの一枚一枚には作り手のマナ(力)が込められ、パターンを繰り返すごとに アロハの心が少しずつ刻み込まれていくのだと教わったものよ」とキルト職人のレイマレーさんは語る。

A single quilt requires thousands of intricate stitches fastened by hand and often takes years to complete.
The ‘ulu (breadfruit) is one of the earliest Hawaiian quilt patterns.

ウル(ブレッドフルーツ)は、 初期のハワイアンキルトの パターンの一つだ。

針と糸の芸術

職人が一針一針手で縫い上げる美しいハワイアンキルトは豊かな物語に満ちたハワイの歴史を今に伝えている

ジェイド・スノー
写真
ジョン・フック
"Allen Okina Ulu" embroiered onto a traditional Hawaiian quilt.
一枚のキルトには何千 本もの繊細なステッチ が手で縫い込まれるた め、完成するのに何年も かかる。

ハワイアンキルト作りで何より大切なのは、思いを込めて一針一針丁寧 に縫うことだ。完成したキルトには全て、作り手の意図が込められた名 前が付けられる。キルト職人のパトリシア・レイマレーさんは、キルトの 命名には作る作業と同じくらい重要な意味があるという。40年以上に わたってキルト製作を続けているレイマレーさんは「、図案が決まると、 まずは瞑想から始めるの。静かに祈りを捧げて深呼吸しながら生地を 裁断し、切ったパターンを折ったまま布のピコ(中央)に置く。その瞬間、 キルトに命が宿るのよ」と説明する。キルト製作には何年もの歳月がか かる。小さな作品でも、何千本もの複雑なステッチを全て手で縫うため だ。その過程で、作り手とキルトの間に絆が生まれ、一針ごとに作り手の マナがキルトに縫い込まれていく。

針と糸の芸術

シーズン 4 エピソード 4
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宣教師がハワイにキルティングの技術を持ち込んだ19世紀の終 わり頃、ハワイアンはすでにテキスタイルアートを楽しんでいた。ハワイ 伝統の布は、ワウケ(桑の木の一種)の樹皮を打って柔らかくなめし、オ ヘ・カパラと呼ばれる手彫りの竹製スタンプを使って捺染したもので、
「カパ」と呼ばれる。こうやって作られた繊細なタペストリーは、衣服から ベッドカバー、死装束まであらゆるものに使われていた。先住民の服装 がビクトリア様式のファッションに取って代わられるようになると、伝統 的なカパ・モエ(ベッドカバー)は、ハワイ固有の植物の葉をモチーフに した厚手のハワイアンキルトに姿を変えていった。

Patricia Lei Murray threading through her quilt.
裁縫やハワイ文化についての本 を何冊も書いている著者のパト リシア・レイマレーさんにとって キルト作りは瞑想のようなもの だという。

「ハワイアンの女性たちは、自然をより大きなスケールで家に取 り入れたいと考え、きっと本能的にその方法を知っていたのね」。レイマ レーさんは、ある女性が太陽の光が注ぐ中、ウル(ブレッドフルーツ)の 木の下にシーツを広げた際に、葉と果実がシーツに落とした影の美し さに魅了され、ハワイアンキルトの最初のパターンの「ウル」が生まれた、 という彼女のお気に入りのハワイアンキルトの成り立ちのストーリーを 教えてくれた。この植物はポリネシア全体の主食として重要であるだけ でなく、ハワイ語の単語「ʻulu」は、豊かさと成長を意味するハワイ文化 にとって象徴的なものである。

Quilter Kanani Reppun enjoys the sense of clarity that guides each stitch.

キルト作りは時にして孤独な作業であるが、作り手同士の間に 育まれる絆も楽しみの一つだ。当時、若い母親だったレイマレーさんは、 カメハメハスクールズのカパラマ校で受講したキルティングコースがき っかけでハワイアンキルトの世界に入った「。すべてのキルトには物語が あってね。初代キルターのクプナから、キルトの一枚一枚には作り手の マナ(力)が込められ、パターンを繰り返すごとにアロハの心が少しずつ 刻み込まれていくのだと教わったものよ」。レイマレーさんは天性の才 能が開花し、まもなくキルト製作の注文を受けるようになった。ハワイ 王朝の転覆によって降ろされたイオラニ宮殿のハワイ王国旗を象徴す る「クウ・ハエ・アロハ・マウ(私の最愛の旗よ永遠に)」と名付けられた 作品もその一つだ。当時を生きたハワイアンの女性を称えるこの貴重な キルトは、ハワイ王朝が歩んだ激動の歴史とハワイの人々の強さや団結 の象徴としてハワイ人問題事務局(OHA)に飾られている。

Women quilting hawaiian print patterns.
「初期のキルターのクプナから、キルトの一枚一枚には作り手のマナ(力)が込められ、パターンを繰り返すごとに アロハの心が少しずつ刻み込まれていくのだと教わったものよ」とキルト職人のレイマレーさんは語る。

2013年、レイマレーさんは、ホノルル美術館でキルトのコースを 教え始めた。そこで最初の教え子となったキルターのカナニ・レップンさ んと出会った。「精神を集中する作業のキルト作りは、瞑想と同じような 効果があります。キルトを作るときは、部屋の中で何時間も座ったまま 静かに一人で作業することもあれば、姉妹のようなキルター仲間たちと 一緒に縫いながらアロハを分かち合うこともあります」とレップンさん。 キルターのパット・ゴアラングトンさん(30歳)は、キルト職人のアルテ ア・ポアカラニ・セラオさんと夫のジョン・セラオさんが運営する「ザ・ポ アカラニ&カンパニー・ハワイ・キルティング・ギルド」のメンバーだ。ゴ アラングトンさんは、自宅で毎日キルト作りに10時間ほど費やし、毎週 開催されるポアカラニの集まりで仲間と作品を共有することを楽しみ にしている「。キルトのおかげで創造力が豊かになりました。モダンな要 素をデザインに取り入れて楽しんでいます。自分が気に入り、他の人に も喜んでもらえるデザインに仕上がった時は何より幸せです」と彼女は 言う。

A single quilt requires thousands of intricate stitches fastened by hand and often takes years to complete.

キルティング技術においては伝統に忠実なキルターたちも、その 芸術表現は実に様々で、近代的な用途や新しいアイディアを柔軟に取 り入れて楽しんでいる。レイマレーさんは、ココムーンという子供服ブラ ンドのオーナーのアンバー・チバウトさんに依頼され、竹製の布ででき た優しい肌触りのベビー毛布にプリントするキルトのデザインを考案し た。「ハワイアンキルトの型だけを真似するのではなく、ベテランのキル ト職人の力を借りて、愛や伝統、思いやりを感じさせる本物のハワイア ンキルトをデザインしたかったのです」とチバウトさんは話す。レイマレーさんのおかげで、丁寧に愛情を込めて作られたキルトと同じようにス テッチの一本一本まで詳細に再現された手作り感溢れるプリントが生 まれた。成長していく赤ちゃんや家族を象徴するウルのデザインは、心 温まるハワイアンキルトの伝統そのものだ。

The ‘ulu (breadfruit) is one of the earliest Hawaiian quilt patterns.
ウル(ブレッドフルーツ)は、 初期のハワイアンキルトの パターンの一つだ。

「ハワイアンキルトを上手に作る秘訣は、その過程を楽しむこと なの」。レイマレーさんはキルト作りを通して、ハワイアンキルトの伝統、 そして丹念な仕事から生まれる芸術と絆をキルト仲間と共有できるこ とに喜びを感じている。一方、ポカラニ・アンド・カンパニーのウェブサ イトやインスタグラムページ(@hawaiianquiltsbypat)で作品を紹介 することで交流を図っているゴアラングトンさんは「、キルト作りを実践 するようになってハワイアンキルトへの深い感謝の気持ちが生まれまし た。キルトの感触、それに込められた物語、キルト作りを通して生まれた 人との繋がりはどれも素晴らしいものです。それは私の人生を満たして くれています」と語る。

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