A painting of a woman taking a nap with a plumeria flower in her hair.
夢の島

ポリネシアの女性たちの肖像を独特のタッチで描く女性画家、ペギー・ホッパー

マシュー・デニーフ
写真
ミシェル・ミシナ

ペギー・ホッパーさんの絵には、独特のニュアンスがある。南国の草花や風景と穏やかな眼差しの南国の島の女性たちを、優しいニュアンスの彩色と大胆な構図で描く女性画家のホッパーさんは、人の心を和ませ、魅了する多くの作品を生んでいる。83歳のペギーさんは今も現役のアーティストとして、ハワイの女性たちの肖像画を長年にわたって描き続け、チャイナタウンに自らの名を冠したギャラリーを営んでいる。膝を抱えて座ったり、寝そべった姿勢のおおらかな魅力に満ちた女性たちを優しいタッチで描いた絵は、彼女の感性が光る代表作で、どれも叙情的でロマンチックなムードに溢れている。

1935年にオークランドで生まれたホッパーさんは、幅広い分野で、英才教育とも言える芸術教育を受けた。戦後に南カリフォルニアで成人を迎え、1953年にパサデナで絵画とイラストとグラフィックデザインを学び、卒業後はニューヨークとサンフランシスコの広告代理店に勤めた。1960年にヨーロッパへ渡ると、ミラノでイタリアの有名デパート、ラ・リナシェンテのポスターのイラストを手がけることに。当時、広告業界で流行っていた平坦なグラフィックデザインに、女性の比喩的なスケ ッチを取り入れたホッパーさん独自のアートスタイルが生まれたのはこの頃だった。

3年後の1963年、ホッパーさんは生まれたばかりの赤ん坊を連れて、ロサンゼルスからハワイに引っ越した。混雑した都会の生活を離れ、のどかな場所で家族を育てたいと考えていた彼女にとって、ハワイは理想的な環境だった。ホッパーさんは、ハワイに着いた時の印象を「 全てがみずみずしく純粋で、新しい発見と新鮮さに満ち、活気と豊かな自然に溢れていた」と書き残している。当時の感想は、その数年後の2002年に彼女が出版した本『Women of Hawai’i』の序章にもなっている。ホノルルでは、広告代理店のアートディレクターとして働き、三人の娘を育てながら絵を描き続けた。

ホッパーさんの作品の主題は、ハワイ州立公文書館で目にした19世紀のハワイの島民の写真がインスピレーションの源となっている。中でも、印象的だったのが当時の女性たちの表情だったという。「オープンで、自意識を感じさせない純粋な眼差しで、別の時代から私をまっすぐ見据えているようだった。ネイティブの衣服やウエストを締め付けるビクトリア朝のドレスに身を包んだ女性たち。そんな彼女たちの自然体の姿を描きたいと思ったの」。

こうして生まれたアートは、当初はホッパーさんの個人的な作品だった。以前のほとんどの作品で課せられた商業的な制約から解放され、自由に表現する機会を得た彼女は、60年代後半から70年代初頭にかけて主流だったハワイの女性のイメージやマーケティングに異議を唱える、独自の芸術的ビジョンを作り上げた。ホッパーさんが新たに手がけた肖像画には、過去にデザイナーストアの仕事で要求された派手さや贅沢感は一切なく、それに替わって女性たちのありのままの魅力が描かれている。男性の影がないアワプヒの木陰で、横になってくつろいでいる女性の姿は、威厳とロマンスすら感じさせる。

ペギー・ホッパーさんの肖像画の特徴は、この孤独感だ。意外なことに、女性の体型を利用せず、物憂げで独特な雰囲気を持つホッパ ーさんの絵は、インテリアデザインの改善に躍起になっていたホテルをはじめ、当時急成長中だった観光業界から注目を集めた。彼女の初仕事は、1969年に改装工事を終えたハワイ島のコナビレッジに飾られた22枚の絵だった。その後間もなく、ハワイのリゾートや民間企業、さらにはホノルル空港から、オリジナル作品の注文が次々と入るようになり、ギャラリーでの展覧会も断続的に開催された。 独自のスタイルと主題によって、描かれた人物を特定せずとも、一目見て彼女の作品だと分かるのが、ペギー・ホッパーさんの絵の最大の特徴だ。作品のタイトルに、描かれた女性の名前が付けられることはなく、それが見る人と絵のフレームの間に適度な距離感を生んでいる。いかにも無関心そうな表情で、幅広い葉をした熱帯植物のブロメリアやバナナ、垂れ下るヘリコニアの影からこちらへ虚ろな目を向けている女性の姿からは「、この女性は何を考えているんだろう?」という質問が必然と湧いてくる。

幻想的で不思議な魅力と情緒に満ちたホッパーさんの絵画は、どの時代にもあらゆる世代のファンを魅了してきた。彼女は、自らが描くアンニュイな表情の女性たちの心情について、知りたいと思ったことはないと語っている。彼女たちの内面に憶測を巡らせること自体、図々しいと考えているのだ。必ずしも歓迎しているようには見えない表情が、余計に私たちの好奇心をそそり、思慮を巡らせる。「彼女が何を考えているかは、見る人それぞれの解釈があっていいと思うの」とホッパーさんは語る。

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ペギー・ホッパーさんのオリジナル作品「ア・ショート・ナップ」は、チャイナタウンにある彼女のギャラリーに展示されている。

ホッパーさんは、1963年にハ ワイにやってきて以来、地元の アートシーンに貢献している。

ホッパーさん独特のスタイルは、カラフルなプリントに描かれたハワイの女性たちに象徴される。

夢の島

ポリネシアの女性たちの肖像を独特のタッチで描く女性画家、ペギー・ホッパー

マシュー・デニーフ
写真
ミシェル・ミシナ

ペギー・ホッパーさんの絵には、独特のニュアンスがある。南国の草花や風景と穏やかな眼差しの南国の島の女性たちを、優しいニュアンスの彩色と大胆な構図で描く女性画家のホッパーさんは、人の心を和ませ、魅了する多くの作品を生んでいる。83歳のペギーさんは今も現役のアーティストとして、ハワイの女性たちの肖像画を長年にわたって描き続け、チャイナタウンに自らの名を冠したギャラリーを営んでいる。膝を抱えて座ったり、寝そべった姿勢のおおらかな魅力に満ちた女性たちを優しいタッチで描いた絵は、彼女の感性が光る代表作で、どれも叙情的でロマンチックなムードに溢れている。

The original piece, “A Short Nap,” by Pegge Hopper is on display at her namesake showroom in Chinatown.

1935年にオークランドで生まれたホッパーさんは、幅広い分野で、英才教育とも言える芸術教育を受けた。戦後に南カリフォルニアで成人を迎え、1953年にパサデナで絵画とイラストとグラフィックデザインを学び、卒業後はニューヨークとサンフランシスコの広告代理店に勤めた。1960年にヨーロッパへ渡ると、ミラノでイタリアの有名デパート、ラ・リナシェンテのポスターのイラストを手がけることに。当時、広告業界で流行っていた平坦なグラフィックデザインに、女性の比喩的なスケ ッチを取り入れたホッパーさん独自のアートスタイルが生まれたのはこの頃だった。

3年後の1963年、ホッパーさんは生まれたばかりの赤ん坊を連れて、ロサンゼルスからハワイに引っ越した。混雑した都会の生活を離れ、のどかな場所で家族を育てたいと考えていた彼女にとって、ハワイは理想的な環境だった。ホッパーさんは、ハワイに着いた時の印象を「 全てがみずみずしく純粋で、新しい発見と新鮮さに満ち、活気と豊かな自然に溢れていた」と書き残している。当時の感想は、その数年後の2002年に彼女が出版した本『Women of Hawai’i』の序章にもなっている。ホノルルでは、広告代理店のアートディレクターとして働き、三人の娘を育てながら絵を描き続けた。

Since arriving to Hawai‘i in 1963, Hopper has been contributing to the local arts scene.

ホッパーさんの作品の主題は、ハワイ州立公文書館で目にした19世紀のハワイの島民の写真がインスピレーションの源となっている。中でも、印象的だったのが当時の女性たちの表情だったという。「オープンで、自意識を感じさせない純粋な眼差しで、別の時代から私をまっすぐ見据えているようだった。ネイティブの衣服やウエストを締め付けるビクトリア朝のドレスに身を包んだ女性たち。そんな彼女たちの自然体の姿を描きたいと思ったの」。

こうして生まれたアートは、当初はホッパーさんの個人的な作品だった。以前のほとんどの作品で課せられた商業的な制約から解放され、自由に表現する機会を得た彼女は、60年代後半から70年代初頭にかけて主流だったハワイの女性のイメージやマーケティングに異議を唱える、独自の芸術的ビジョンを作り上げた。ホッパーさんが新たに手がけた肖像画には、過去にデザイナーストアの仕事で要求された派手さや贅沢感は一切なく、それに替わって女性たちのありのままの魅力が描かれている。男性の影がないアワプヒの木陰で、横になってくつろいでいる女性の姿は、威厳とロマンスすら感じさせる。

Hopper’s iconic style is synonymous with the Hawaiian women she portrays in her colorful prints.

ペギー・ホッパーさんの肖像画の特徴は、この孤独感だ。意外なことに、女性の体型を利用せず、物憂げで独特な雰囲気を持つホッパ ーさんの絵は、インテリアデザインの改善に躍起になっていたホテルをはじめ、当時急成長中だった観光業界から注目を集めた。彼女の初仕事は、1969年に改装工事を終えたハワイ島のコナビレッジに飾られた22枚の絵だった。その後間もなく、ハワイのリゾートや民間企業、さらにはホノルル空港から、オリジナル作品の注文が次々と入るようになり、ギャラリーでの展覧会も断続的に開催された。独自のスタイルと主題によって、描かれた人物を特定せずとも、一目見て彼女の作品だと分かるのが、ペギー・ホッパーさんの絵の最大の特徴だ。作品のタイトルに、描かれた女性の名前が付けられることはなく、それが見る人と絵のフレームの間に適度な距離感を生んでいる。いかにも無関心そうな表情で、幅広い葉をした熱帯植物のブロメリアやバナナ、垂れ下るヘリコニアの影からこちらへ虚ろな目を向けている女性の姿からは「、この女性は何を考えているんだろう?」という質問が必然と湧いてくる。

幻想的で不思議な魅力と情緒に満ちたホッパーさんの絵画は、どの時代にもあらゆる世代のファンを魅了してきた。彼女は、自らが描くアンニュイな表情の女性たちの心情について、知りたいと思ったことはないと語っている。彼女たちの内面に憶測を巡らせること自体、図々しいと考えているのだ。必ずしも歓迎しているようには見えない表情が、余計に私たちの好奇心をそそり、思慮を巡らせる。「彼女が何を考えているかは、見る人それぞれの解釈があっていいと思うの」とホッパーさんは語る。

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