ハイブリッドのハイビスカス

世界に一つだけの花を作り出すモクレイアの「ハイビスカスレディ」.

ミシェル・ブロダー・ヴァン・ダイク
写真
ジョン・フック

「ハイビスカスレディ」という異名を持つジル・コリエルさんから何年も前にもらったハイビスカスは、世界を根底から揺さぶるパンデミックの最中にも、昇る太陽に合わせて規則正しく咲き続けた。家にいることが多かったので毎日新しいつぼみが開くのを眺めることができた。黄色い花びらの中から、赤みがかったピンクと紫が混ざり合ったクロード・モネの『睡蓮』のような色合いが現れる。このハイビスカスにコリエルさんはフランスの印象派にちなんだ名前を付けた。花はほぼ24時間続き続け、その色は刻々と変化した。このハイビスカスは1日を通して同じ表情を見せることがなく、最初から最後まで芸術的な美しさだった。
去年の夏、私はモクレイアのハイビスカスレディの植物園を訪ねた。そこではコリエルさんが少数の女性たちで構成された園芸家グループの助けを借りて、世界に一つしかないハイブリッドのハイビスカスを栽培している。何百種類もあるカラフルなハイビスカスの中でも、彼女の育てた花が日々の生活にとりわけ美しい彩りを与えてくれると感じるのは私だけではないとコリエルさんはいう。
ハイビスカスレディと呼ばれるようになる以前、コリエルさんはワイメアバレー植物園でボランティアをしていた。ハイビスカスの世話を任され、ハワイにしかない品種が少なくとも10種はあると知った。そのうちのひとつは1988年に州花に定められている。1870年にハイビスカスの交配を始めたカイウラニ王女の父のアーチバルド・クレグホーン氏の話を聞いたコリエルさんは、独自のハイビスカス交配種を作り始めるとすっかり夢中になった。その後、ユナイテッド航空でフルタイムで働きながら2000年に植物園を開園した。「あの頃はほとんど寝ていませんでした」とコリエルさんは当時を振り返る。
交配によってハイビスカスの新品種を作るには、色、香り、花のサイズ、形、花びらの数といった花の特性を考慮するという。通常ハイビスカスには5枚の花びらがあり、10枚以上の花びらがある場合は「ダブル」と呼ばれる。さらに色が同じままで咲くか、1日を通して変化するかどうかを考える。交配させる好みの花を2つ選び、それらを “母”と“父”と呼ぶのだそうだ。
コリエルさんは2つの花のおしべとめしべをこすり合わせながら「交配はとても複雑なのよ。だから5歳の孫娘にやってもらったわ」と冗談を言う。受粉が成立すると、母の花は萎んで落ち、種子のさやだけが残る。種子ごとに異なる花が生成され、一つとして同じものはできない。親の花に全く似ていない場合もある。それは気の遠くなるようなプロセスで、最初の花が咲くまでに少なくとも1年はかかる。
夕方になるとコリエルさんとスタッフは植物園の中を歩き回り、新交配種のハイビスカスが初めて開花する朝にどんな姿を見せるか推測し合うのだという。「まるで毎日がクリスマスみたいなの」とコリエルさんは嬉しそうだ。
ハイビスカスレディ植物園で新たに完成したハイビスカスのうち、実際に新種として認められるのはわずか3パーセントにしか満たない。そのためには園内を回るコリエルさんの目に止まり、彼女が「なんて素晴らしいの!」と叫ぶほど美しくなけばならない。それ以下のものは全て堆肥と化す。そして多数決で決まることもある。彼女のスタッフや家族も新交配種を作っていて、どの品種を残すかについては彼らも意見することができる。
新しい花には一つ一つに名前が付けられている。熱心な読書家のコリエルさんは、彼女が愛し尊敬する人たちにちなんだ名前をつける以外にも、美しい言葉を常に書き出してリストにしている。ハワイ大学マノア校でハワイアンスタディー学部の学生時代に得たハワイ文化とオレロハワイ(ハワイ語)の知識を活用して、彼女が作った花にハワイ語の名前を付けることもある。
ほのかに香るホットピンクと黄色のダブルハイビスカスは、ハワイの言語と文化の保護で有名なハワイ語専門家の故パット・ナマカ・ベーコン氏にちなんで命名した。花弁の端が黄色で鮮やかなオレンジ色のダブルハイビスカスには、ハワイ語で“楽しい祝宴”を意味する「ホオラウレア」という名がついている。早朝には直径20cmほどの大きさの花は、正午には30cmにもなる。この色鮮やかなハイビスカスを指し、「まさにお祝いっていう感じでしょう?」とコリエルさん。「セプテンバーモーニング」という名の繊細なピンクと白のハイビスカスについて「9月11日の米国同時多発テロの犠牲者への哀悼の意が込められているの」と語る彼女は、悲劇的な惨事で命を落とした客室乗務員への敬意を表してこの花を作ったのだという。
客室乗務員として働いていたコリエルさんは、シカゴ行きのルートには決まってハイビスカスのつぼみを持って搭乗した。花は乗り継ぎのある中西部で咲きだし、帰りの飛行機の中で髪を飾るのにちょうどいい大きさに開花する。オヘア空港では、しばしば人々が彼女を止めて「ハワイ!」と声を上げたという。彼女がどこにいても、ハイビスカスはいつも彼女と島を結んでいた。
ハイビスカスレディは自ら作った花を髪につける習慣を今も続けている。「髪につけるのは派手なダブルがいいわね。このほうが色っぽいのよ」とフリルのきいた花びらが二重の黄色とピンクと紫のハイビスカスを耳の後ろに挿してコリエルさんは言う。「74歳でもまだ色っぽくいられるのよ」。

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ハイビスカスレディとしても知られるジル・コリエルさんは、20年以上にわたってハイビスカスを交配している。

ハイビスカスレディ植物園では、ハイビスカスを手作業で異花受粉させ、見事で複雑な配合種を作っている。

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