Kapa cloth and the various tools used for the designs.
カパ作り

長年の研究と鍛錬によって失われつつあるカパの神秘を紐解き、復活させたカパ職人たち

マシュー・デニーフ
写真
ジョン・フック

ハワイアンのカパを目にしたことがあるだろうか。何世紀にもわたって 島の酋長や島民たちが身につけていたカパは、桑の木の内側の樹皮を 木の棒で叩いて薄く伸ばして作られた布だ。光にかざせばそれが本物 のカパであるかが分かる。土色をした万華鏡のような模様のある布を 斜めにしてよく見ると、一面に独特の質感のあるパターンが広がってい る。これが「アハ」と呼ばれるハワイの伝統的なカパ特有の細かい透か し模様である。

太平洋の他の島々では「タパ」とも呼ばれるカパは、この地域の島 の社会全体で見られる。この布は、ハワイ以外の島でも人々が身につけ る衣服として、または伝統儀式に使う装飾や、枕や毛布、ベッドカバーな ど、日常生活のあらゆる用途や場面で使用された。格子模様からジグザ グ模様まで、そのデザインには膨大な数があり、自然をモチーフにした ものや、中には作り手のカパ職人にしか分からない神聖な意味を持っ たものもある。

ダラニ・タナヒーさんは、ハワイで現在もカパを製作する数少な い職人の一人であり、カパ作りをフルタイムの仕事とする唯一の職人 だ。カパの研究と製作を25年以上にわたって続けてきた彼女は、2007 年にマカハにある自宅に面した空き地に女性一人で経営するアトリエカパ・ハワイ」をオープン。ハワイで指折りのカパ職人のカフナ・プアナ ニ・ファン・ドルペさんがこの世を去って以来、1970年代に盛んになっ たハワイ文化復興運動によってカパ作りが復活を遂げるまでカパは失 われた芸術と見なされていた。カパの伝統を現代に伝える職人が今も 健在なサモアやトンガやフィジーとは異なり、ハワイにはカパ職人の直 系の子孫が残っていなかったためだ。だがハワイの文化従事者たちは、 口頭伝承によって残された記録や歴史資料、ビショップ博物館の民族 学コレクションをもとに研究し、試行錯誤を繰り返すことによって、忘 れ去れかけていたカパという芸術を復活させ、その神秘を今も解明し 続けている。

カパ作りは手間のかかる孤独な作業であるだけでなく、高度な 専門性と多くの研究時間を要する。「カパ職人になるということは、想像 以上に大変です。植物学者と彫刻家とグラフィックデザイナーの素質を 兼ね備えていなければならないのですから」とタナヒーさん。

カパの原料は、手の平より大きな葉をつける細長く背の高い木か ら取れる。タナヒーさんは「カパを知るにはまず元になる木について知 らなければなりません」と言う。マカハにある彼女の敷地には、彼女が 10年ほど前に植えた背の高いワウケの木の林が密集して生えている。 ワウケは桑の木の一種で、その樹皮が新しい島での生活に欠かせない 貴重な資源となることを知っていたハワイの初期の入植者たちが、カヌ ーに乗せて持ち込んだ植物だ。天然木でできた頑丈で四角い棒の「イ エ・クク」はカパ作りに欠かせない道具で、樹皮を叩いて平らにするのに 使用する。この棒を作るのには彫刻の技術も必要とされる。タナヒーさ んはこれらの木材を自ら調達し(性質の似ているもので外来種の木材 を使用することもある)、全てのイエ・ククを手作りしている。出来上がっ た棒の側面には、完成したカパの表面に透かし模様として浮かび上が るデザインが一本一本彫り込まれる。

カパの作品にはそれぞれ深い意味が込められている。詳しい人 が見れば一枚のカパから多くを読み取ることができるだろう。幾何学模 様や色で表現される多様なパターンは、様々な植物から取れる染料とオヘ・カパラ」と呼ばれる竹製のスタンプを使って刻印されたものだ。 タナヒーさんの作るカパは、活き活きとした多彩なデザインが特徴だ。 彼女の作品群には、ジェットコースターのレールのようなねじれ模様が 躍動感を感じさせるカパもあれば、控えめでエレガントな真っ白なカパ まで幅広いデザインのものがある。

今日、タナヒーさんの作品は、ハワイ中のホテルやリゾートなど、 数多くの現代アートスペースに飾られ、海外のアートギャラリーやアー トコレクターによって収集されている。タナヒーさんは、メリー・モナー ク・フェスティバルに出場するフラハラウから伝統的なカパを身につけ たいという相談を受けることもあれば、ホノルル美術館でカパ作りのワ ークショップを開くこともある。

最近では、カピオラニ女王のベッドフレームの上に並ぶ2本のカ ヒリの土台を飾るカパを2枚完成させた。伝統的な葬儀に使用する神 聖なカパ(ハワイ先住民の間では昔から愛する人の骨をカパで包む慣 習がある)を作ることも、彼女にとっては光栄なことだという。ワウケの 木陰で丹念な手作業を繰り返すタナヒーさんの技術は、先住民の女性 たちがこの島に入植して以来、腕を磨き、受け継いできたカパ作りの伝 統に根付いている。オピヒ貝の殻で樹皮を剥ぎ、竹のスタンプにインク をつけ、カパへの思いを込めて押しつける。そこにまた一つ彼女のマー クが刻まれていく。

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Stacks of Kapa (barkcloth).
Kapa cloth and the various tools used for the designs.
A spread of different kapa cloths with various patterns.

ポリネシアの他の場所ではタパとも呼ばれるカパは、それぞれの島の文 化独自のデザインや技術によって手で染められている。

Preserved ancient kapa, found at the Bishop Museum.

碁盤目からジグザグ模様まで、自然にあるモチーフのバラエティに富んだデザインが施されているカパ。中には 作り手のカパ職人にしか分からない神聖な意味が込められているものもある。

Dalani Tanahy, one of Hawai‘i's kapamakers.

ダラニ・タナヒーさんはハワイに住む数少ないカパ職人の一人だ。

Red and beige colored kapa cloth.
A unique black pattern on a white piece of kapa cloth.
An ancient kapa cloth with black and brown design embedded into it.

バーニース・パウアヒ・ビショッ プ博物館にある民族学のコレク ションには古代のカパが保存さ れている。

An i‘e kuku, a four sided anvil that is traditionally carved of native wood.

カパを打ち付けるのに使う 四角い棒のイエククは本来、 天然木を削って作られる。

カパ作り

長年の研究と鍛錬によって失われつつあるカパの神秘を紐解き、復活させたカパ職人たち

マシュー・デニーフ
写真
ジョン・フック
Stacks of Kapa (barkcloth).
Kapa cloth and the various tools used for the designs.

ハワイアンのカパを目にしたことがあるだろうか。何世紀にもわたって 島の酋長や島民たちが身につけていたカパは、桑の木の内側の樹皮を 木の棒で叩いて薄く伸ばして作られた布だ。光にかざせばそれが本物 のカパであるかが分かる。土色をした万華鏡のような模様のある布を 斜めにしてよく見ると、一面に独特の質感のあるパターンが広がってい る。これが「アハ」と呼ばれるハワイの伝統的なカパ特有の細かい透か し模様である。

太平洋の他の島々では「タパ」とも呼ばれるカパは、この地域の島 の社会全体で見られる。この布は、ハワイ以外の島でも人々が身につけ る衣服として、または伝統儀式に使う装飾や、枕や毛布、ベッドカバーな ど、日常生活のあらゆる用途や場面で使用された。格子模様からジグザ グ模様まで、そのデザインには膨大な数があり、自然をモチーフにした ものや、中には作り手のカパ職人にしか分からない神聖な意味を持っ たものもある。

カパ作り

シーズン4エピソード1
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ダラニ・タナヒーさんは、ハワイで現在もカパを製作する数少な い職人の一人であり、カパ作りをフルタイムの仕事とする唯一の職人 だ。カパの研究と製作を25年以上にわたって続けてきた彼女は、2007 年にマカハにある自宅に面した空き地に女性一人で経営するアトリエカパ・ハワイ」をオープン。ハワイで指折りのカパ職人のカフナ・プアナ ニ・ファン・ドルペさんがこの世を去って以来、1970年代に盛んになっ たハワイ文化復興運動によってカパ作りが復活を遂げるまでカパは失 われた芸術と見なされていた。カパの伝統を現代に伝える職人が今も 健在なサモアやトンガやフィジーとは異なり、ハワイにはカパ職人の直 系の子孫が残っていなかったためだ。だがハワイの文化従事者たちは、 口頭伝承によって残された記録や歴史資料、ビショップ博物館の民族 学コレクションをもとに研究し、試行錯誤を繰り返すことによって、忘 れ去れかけていたカパという芸術を復活させ、その神秘を今も解明し 続けている。

A spread of different kapa cloths with various patterns.
ポリネシアの他の場所ではタパとも呼ばれるカパは、それぞれの島の文 化独自のデザインや技術によって手で染められている。

カパ作りは手間のかかる孤独な作業であるだけでなく、高度な 専門性と多くの研究時間を要する。「カパ職人になるということは、想像 以上に大変です。植物学者と彫刻家とグラフィックデザイナーの素質を 兼ね備えていなければならないのですから」とタナヒーさん。

Preserved ancient kapa, found at the Bishop Museum.
碁盤目からジグザグ模様まで、自然にあるモチーフのバラエティに富んだデザインが施されているカパ。中には 作り手のカパ職人にしか分からない神聖な意味が込められているものもある。

カパの原料は、手の平より大きな葉をつける細長く背の高い木か ら取れる。タナヒーさんは「カパを知るにはまず元になる木について知 らなければなりません」と言う。マカハにある彼女の敷地には、彼女が 10年ほど前に植えた背の高いワウケの木の林が密集して生えている。 ワウケは桑の木の一種で、その樹皮が新しい島での生活に欠かせない 貴重な資源となることを知っていたハワイの初期の入植者たちが、カヌ ーに乗せて持ち込んだ植物だ。天然木でできた頑丈で四角い棒の「イ エ・クク」はカパ作りに欠かせない道具で、樹皮を叩いて平らにするのに 使用する。この棒を作るのには彫刻の技術も必要とされる。タナヒーさ んはこれらの木材を自ら調達し(性質の似ているもので外来種の木材 を使用することもある)、全てのイエ・ククを手作りしている。出来上がっ た棒の側面には、完成したカパの表面に透かし模様として浮かび上が るデザインが一本一本彫り込まれる。

An ancient kapa cloth with black and brown design embedded into it.
バーニース・パウアヒ・ビショッ プ博物館にある民族学のコレク ションには古代のカパが保存さ れている。
Dalani Tanahy, one of Hawai‘i's kapamakers.
ダラニ・タナヒーさんはハワイに住む数少ないカパ職人の一人だ。

カパの作品にはそれぞれ深い意味が込められている。詳しい人 が見れば一枚のカパから多くを読み取ることができるだろう。幾何学模 様や色で表現される多様なパターンは、様々な植物から取れる染料とオヘ・カパラ」と呼ばれる竹製のスタンプを使って刻印されたものだ。 タナヒーさんの作るカパは、活き活きとした多彩なデザインが特徴だ。 彼女の作品群には、ジェットコースターのレールのようなねじれ模様が 躍動感を感じさせるカパもあれば、控えめでエレガントな真っ白なカパ まで幅広いデザインのものがある。

Red and beige colored kapa cloth.
A unique black pattern on a white piece of kapa cloth.

今日、タナヒーさんの作品は、ハワイ中のホテルやリゾートなど、 数多くの現代アートスペースに飾られ、海外のアートギャラリーやアー トコレクターによって収集されている。タナヒーさんは、メリー・モナー ク・フェスティバルに出場するフラハラウから伝統的なカパを身につけ たいという相談を受けることもあれば、ホノルル美術館でカパ作りのワ ークショップを開くこともある。

An i‘e kuku, a four sided anvil that is traditionally carved of native wood.
カパを打ち付けるのに使う 四角い棒のイエククは本来、 天然木を削って作られる。

最近では、カピオラニ女王のベッドフレームの上に並ぶ2本のカ ヒリの土台を飾るカパを2枚完成させた。伝統的な葬儀に使用する神 聖なカパ(ハワイ先住民の間では昔から愛する人の骨をカパで包む慣 習がある)を作ることも、彼女にとっては光栄なことだという。ワウケの 木陰で丹念な手作業を繰り返すタナヒーさんの技術は、先住民の女性 たちがこの島に入植して以来、腕を磨き、受け継いできたカパ作りの伝 統に根付いている。オピヒ貝の殻で樹皮を剥ぎ、竹のスタンプにインク をつけ、カパへの思いを込めて押しつける。そこにまた一つ彼女のマー クが刻まれていく。

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