Hadley Nunes working in studio.
花ざかりの狂詩曲

芸術が有機的に生まれる、ボタニカルアーティスト、ハドレー・ヌネスさんのアトリエ

ナタリー・シャック
写真
Jジョン・フック & イフカ・リッジリー

「見ていると楽しい気分になります」と話すのは、スタジオの壁に掛かった自らの作品に見入りながら思いに耽けるハドレー・ヌネスさん。大胆なポーズをしたヌードの女性が描かれた彼女のトリプティック(三連形式の絵画)に、鮮やかで抽象的なキングプロテアをどう描き加えるべきか思索にふけっているのであった。平面と鋭い輪郭を持ったこの ドラマチックで 美しい花に今彼女は夢中で、そのモチーフは彼女の最近の作品に繰り返し使われている。それはヌネスさんがこの瞬間、アーティストとして何を感じ、どう捉えているのかを示すサインのようである。ハレクラニで6月に開催される展示会のためにヌネスさんが一年前から制作している初期の作品のひとつにも、最後の仕上げにプロテアが加えられることになっている。

「私はこのコラージュの要素が大好きです。軽快なタッチで内面的なものを上手く表現する ことができるから」と彼女は3つ目のパネルを指 差していう。そこには赤紫色の輝きとライム色の木の葉のような紙のコラージュがモデルの足元で夢のように混ざり合っている「。もしここにドラマチックなプロテアを加えるとしたら、独特の詩的ニュアンスが消えてしまう。絵は何度でも描くことができるけれど、詩的な瞬間は再現することはできません」。しばらくして考え直した彼女は「いいえ、やっぱり花をニュートラルなトーンの3色使いで描けばいいんだわ。この自由さを尊重しながらね」と熱心に語る。

ヌネスさんは17歳の時に家族とともにハワイに移住した。その後、米国本土のスミスカッレッジとニューヨークスタジオスクールに通い、カウアイ島出身の夫と出会ってハワイへ戻った。そしてカカアコ地区にある倉庫内に「ラナ・レーン・スタジオ」というショップを開いた。ここでは共同スペースを使って、現在20名のアーティストが制作活動をしている。鉢植えのサボテンやモンステラ、製作中のキャンバスや、木製ブロックの上に立つ様々な女神像をはじめ、彼女のインスピレーションとなるオブジェや芸術作品が所狭しと並ぶ彼女のスタジオには、『100のモノが語る世界の歴史』というタイトルの本や膨大な数の歴史的絵画がカラーパレットの隣の棚に綺麗に置かれている。重ねられた厚手の紙の上には、沢山の絵の具が何列にも整然と並べられている。

自然、芸術の巨匠たち、色へのこだわりといったもの全てが、ヌネスさんを言葉では言い表せないものを表現する創作活動へと駆り立てている。それはアーティストである彼女にとって“言語”に等しいという。ヌネスさんは彼女自身の視覚的表現を伝えるのに、パブロ・ピカソの“ブル ー・ピリオド”や彼女の絵のプロテアといった、芸術家が作品の中で表現する美のフェーズについて語った。芸術を専攻し、絵画で大学院の学位を取得したヌネスさんは、それ以来ずっと何らかの形でアーティストとして活動を続けている。その芸術活動の真っ只中にいる彼女が今取り組んでいるのがプロテアと抽象画だ。「今まで見たことのないイメージを発見するのが楽しいんです」とヌネスさん。

芸術作品について他人に言葉で説明するのは難しいものだ。そこでヌネスさんは「花」という媒体を使った別の表現方法を見つけた。カカアコにある植物ブティック「Paiko」のフラワーディレクターである彼女は、花の注文からアレンジメントのデザイン、販売用の花器のディスプレ ーまで全てを行う。

「絵を描くことほど難しいことはないと思っています。それに比べて花はより普遍的な言葉です」と彼女は切り花の入った花瓶を持ち出し、うなだれた色とりどりのチューリップの花弁を優しく撫でながら言う。「フラワーアレンジメントは、花の位置や高さや動きを考え、そこにリズムが生まれるところが楽しいのです。絵の中でも同じことが起こっています。前に出てくる空間、奥に広がる空間。そして正の空間と同じくらい大切な負の空間があります。それが絵の中で、私にとって大切なものと繋がることのできる架け橋になればと思っています。それはこれまでにない新鮮なアプローチと言えます」。

ヌネスさんはその架け橋を自ら企画するフラワーアレンジメントのグループワークショップで見つけた。このワークショップは、彼女のスタジオにゲストを招いてお茶を楽しみながら、彼女の絵を披露したり、共同のフローラルデザインセッションを行うというものだ。参加者たちはグループで一つの花瓶を選び、一人一人がバケツに入った植物から選んだものを一本ずつ生けていく。「それぞれのパーツが集まって一つの芸術になるんです。毎回必ずうまくいくとは限りませんが、とても遊び心に満ちていて、まるでゲームのような感覚です」とヌネスさんは言う。

グループで花をアレンジするこのセッションは、彼女のワークショップシリーズの一環としてのみでなく、映画の主題としても話題になっている。彼女はパロロにある椰子の森で行われた詩的なアレンジ体験の映画を共同制作した。この映画は、今後さらに大きな芸術的インスピレーションを生むであろう。それまでの間、彼女は夏に予定されているアート展をはじめ、彼女を魅了し続けるキングプロテアのアートの制作で忙しい毎日を過ごすことになる。彼女は「しばらくはこの花の美を追求し続けるつもりです。もし飽きたら、次の何かを見つければいいのですから」と笑う。彼女にとって今の季節は、「花」だ。

*ハードレー・ヌネスについての詳細はアーティストのウェブサイト https://hadleynunes.com/ をご覧いただくか、ハレクラニホテルまでお問い合わせください。

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作品をスタジオに飾るハードレー・ヌネスさん

Hadley Nunes working in studio.

ヌネスさんの作業場には、アー ティストの創造力を沸き立たせ るさまざまな植物や筆が入り混 じっている。

ヌネスさんの作業場には、アー ティストの創造力を沸き立たせ るさまざまな植物や筆が入り混 じっている。

花咲く絵筆

シーズン 2 エピソード 5
エピソードを見る

グループフラワーアレンジメントパネルにアクリル 2018 24’ x 30’。植物とペイントブラシが混在するハードレー・ヌネスさんの製作スタジオ

ヌネスさんの絵は色と形が大胆 に表現されている。

ハードレー・ヌネス・スタジオ

Nunes picking flowers.

この夏、ハレクラニでヌネスさん の作品展が開催される。

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