Red-orange and yellow feathered helmet from Hawaii
時を超えた羽

豪華絢爛なマントから帽子を粋に彩るハットバンドまでハワイアンに脈々と受け継がれる羽毛を使った芸術、フェザーワーク。

ナタリー・シャック
写真
ジョン・フック&スカイ・ヨナミネ

19世紀初期のことであった。マウイ島とハワイ島における上流階級で あり、アリイ(王族)の子孫のナヒエナエナ王妃は、今日までその美しさ が語り継がれるほど豪華な羽毛でできたパウ(スカート)を贈られた当 時、まだ幼い子どもであった。

このパウの製作は壮大なプロジェクトであったという。ラハイナの人 々が一年かけて集めた100万本もの小さな羽毛を束ね、網状の生地に 結びつけて作られたスカートなのだと、現在この美術品が収蔵されてい るバーニス・パウアヒ・ビショップ博物館の文化顧問、マルケス・マルザ ン氏は教えてくれた。何より見事なのはその鮮やかな色である。全体が 黄色に輝くこのスカートには、すでに絶滅しているオーオーと呼ばれる ハワイ固有の鳥の首の部分から採取される最も希少な金色の羽毛が 使われている。膨大な数の羽が必要とされるため 、「キア・マヌ」と呼ば れる鳥捕獲隊は、この小さくて貴重な羽を求め、臆病で森の中に隠れて いるミツスイを何日もかけて探し回らなければならなかった。

鳥の羽を使ったフェザーワークは、実は太平洋や世界全域でみられ る。マルザンさん曰く、その芸術は初期のハワイ入植者たちによってポリ ネシアに古くからある彼らの故郷から持ち込まれ、時代とともに独自の 進化を遂げてきたという。たとえば、伝統的なハワイの手工芸品の網状 の裏地には、“オロナ”というハワイにしかない繊維が使われている。もと もとフェザーワークを作り、身につけることは王族階級のみが許されて いた。ビショップ博物館のコレクションには、王族の象徴である黄色と 赤の豪華なマントや三日月形の羽の装飾が施されたヘルメット、上品な フェザーレイ、羽毛で覆われた神像などがある。

カハイリマヌというフェザーワーク工房を手がける親子のレフアナニ さんとカイマナ・チョックさんは、伝統的な手法でフェザーレイと帽子に つけるハットバンドを作っている。二人は、先祖代々伝わるハワイアンの 芸術を今日へと受け継ぐ数少ないフェザーワーク職人である。

「フラを踊っていた私は16歳のとき、レイの作り方を習いました。その 素晴らしさに魅了されて以来、ずっと作り続けています」とレフアナニさ んは言う。彼女のハラウ(フラスクール)の誰もがメリーモナークフェス ティバルに出場するため、自ら身につけるレイ一式を手作りしなければ ならなかったのだそうだ。レイ作りは、フラへのコミットメントと献身の 証でもある「。私が結婚した時、夫の祖母は、彼女の姉妹たちと一緒に 私たち二人のためにレイを作ってくれました。姉妹が亡くなると、彼女た ちの持っていたフェザーレイを全て私に譲ってくれたのです。祖母はフ ェザーレイ作りの伝統が途切れることのないよう、私に受け継いでほし いと願っていました」と語った。

ハワイ文化への関心が高まっている今日、フェザーアートに興味を持 つ人も増えているという。カイマナさん曰く「、一時はフェザーレイを作 る人の数がほんの一握りになったこともありましたが、今では復活の兆 しを見せています」。レフアナニさんは、パールシティの自宅でフェザー レイ作りのレッスンを開催している。女性が大半のグループが週一回2 時間のクラスに集まり、細かい縫い目を繰り返す時間のかかる作業に 熱心に取り組んでいる。

チョック家の自宅には、膨大な時間を費やして手作りされたフェザーワークの作品がところ狭しと飾られている 。そこには王族の象徴である 「カヒリ」とよばれる羽飾りのついたポールや帽子につける「ハクパパ」 というハットバンド、羽を平らに寝かせたデザインの「レイ・カモエ」と羽を立ち上げてふわふわに仕上げた「レイ・ポエポエ」の2種類のフェザー レイなどがある。昔は絶滅種あるいは絶滅に瀕した鳥たちの羽が使用 されていたフェザーレイに、現在では、アーモンドのような模様のキジ の羽や、鮮やかな孔雀の羽が使用されている。チョック家では、自宅で 飼っている鶏の羽を使うこともあるという。

ナヒエナエナ王妃がパウを贈られた頃のフェザーワークはその材料 こそ変わったものの、作り方は昔と変わらない。「先祖代々伝わる方法 で今も作り続けています。フェザーレイ作りは、本から学ぶのではなく、 先祖から習い、人から人へ伝えていくものです。僕にとっては、それが本 当の意味でのハワイアンの伝統なのです」とカイマナさん。

一枚一枚の羽を処理し、切って、結びつけたり、縫い付けたりする一 連の工程が今も全て手作業で行われるフェザーワークには、目的と意 識を持って作業する作り手の心が込められてる。

「古くからのハワイアンの間では、体に身につけるレイには、その人のマ ナやエネルギーが自然に入り込むと考えられています。手作りしたレイ に作り手の心がどれだけ込められているか考えてみてください。1000 枚の羽を一枚ずつ結んでは3針縫ったり、糸を3回巻いたりする作業を 繰り返すのですから」とカイマナさんは言う。レフアナニさんは「自分で 作ったレイを人に贈るということは、あなた自身の一部を捧げているの と同じなのです」と加えた。

マルザン氏によれば、今日のフェザーワークが意味するものは以前と は違っているという。ネイティブ文化に根付くこれらの芸術は、昔は王 族とその側近を象徴する視覚的なシンボルであった。マルザン氏は「今 日のフェザーワークは、伝統文化を守るために受け継がれるべき芸術 として、ハワイの人々のコミットメントのシンボルとなっています」と説明 する。「制作に多くの時間やエネルギーを費やすことで、色々なことを感 じ、考え、見えてくるプロセスこそが大切なのです」。フェザーワーク職 人たちが伝統を受け継ぎ、讃えることに今も変わりはない。ただ昔と違 うのは、それが一部の特別階級の人たちのためではなく、すべての人た ちのためであるということなのだ。

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バーニース・パウアヒ・ ビショップ博物館に展示され ている羽でできたカラニオプウ のアフウラ(マント)。400万本 の羽毛でできている。

Red-orange and yellow feathered helmet from Hawaii

カラニオプウの使用したマヒオ レ(ヘルメット)。

時を超えた羽

シーズン3エピソード3
エピソードを見る

鳥の羽を使ったフェザーワー クは、初期のハワイ入植者たち が古くからあるポリネシアの島 々から持ち込んだ。

今日、カハイリマヌの文化継承者が作るレイには、キジや孔雀、鶏など の羽が使われている。

カハイリマヌのクム(講師)のレフアナニ・チョックさんは、伝統的であり ながらモダンなデザインのハワイアンフェザーレイ作りを教えている。

マモやオーオー、イイヴィといっ た鳥の羽は熟練した捕獲者た ちによって集められた。バーニー ス・パウアヒ・ビショップ博物館 にある写真右のレイには、ハワ イ島のマモの黄色の羽が使用 されている。すでに絶滅している 黒いミツドリのマモの翼の下側 に生えている鮮やかな黄色をし た小さな羽の房は、最も希少な 羽のひとつである。

バーニース・パウアヒ・ビショッ プ博物館のコレクションには、 王族の象徴である黄色と赤の 豪華なマントや上品なフェザー レイなどがある。

「先祖代々伝わる方法で今も作り続けています。フェザーレイ作りは、本から学ぶのではなく、先祖から習い、人から人へ伝えていくもので す。僕にとっては、それが本当の意味でのハワイアンの伝統なのです」
— カハイリマヌのレイ・フル職人のカイマナ・チョックさん

バーニス・パウアヒ・ビショップ博物館の文化顧問、マルケス・マルザン 氏とカウアイの酋長のものであったとされる羽でできたマント。

フェザーレイには、羽を立たせてふんわりと仕上げた「レイ・ポエポエ」と羽を平らに寝かせたデザインの「レイ・カモエ」がある。写真はカハイリマヌ製作の作品。

親子のレフアナニさんとカイマ ナ・チョックさんは、先祖代々伝 わるハワイアンの芸術を今日へ と受け継ぐ数少ないフェザーワ ーク職人である。

上向きの羽を使った珍しいデ ザインのマント。この世に一つ しかない。

時を超えた羽

豪華絢爛なマントから帽子を粋に彩るハットバンドまでハワイアンに脈々と受け継がれる羽毛を使った芸術、フェザーワーク。

ナタリー・シャック
写真
ジョン・フック&スカイ・ヨナミネ

19世紀初期のことであった。マウイ島とハワイ島における上流階級で あり、アリイ(王族)の子孫のナヒエナエナ王妃は、今日までその美しさ が語り継がれるほど豪華な羽毛でできたパウ(スカート)を贈られた当 時、まだ幼い子どもであった。

このパウの製作は壮大なプロジェクトであったという。ラハイナの人 々が一年かけて集めた100万本もの小さな羽毛を束ね、網状の生地に 結びつけて作られたスカートなのだと、現在この美術品が収蔵されてい るバーニス・パウアヒ・ビショップ博物館の文化顧問、マルケス・マルザ ン氏は教えてくれた。何より見事なのはその鮮やかな色である。全体が 黄色に輝くこのスカートには、すでに絶滅しているオーオーと呼ばれる ハワイ固有の鳥の首の部分から採取される最も希少な金色の羽毛が 使われている。膨大な数の羽が必要とされるため 、「キア・マヌ」と呼ば れる鳥捕獲隊は、この小さくて貴重な羽を求め、臆病で森の中に隠れて いるミツスイを何日もかけて探し回らなければならなかった。

鳥の羽を使ったフェザーワークは、実は太平洋や世界全域でみられ る。マルザンさん曰く、その芸術は初期のハワイ入植者たちによってポリ ネシアに古くからある彼らの故郷から持ち込まれ、時代とともに独自の 進化を遂げてきたという。たとえば、伝統的なハワイの手工芸品の網状 の裏地には、“オロナ”というハワイにしかない繊維が使われている。もと もとフェザーワークを作り、身につけることは王族階級のみが許されて いた。ビショップ博物館のコレクションには、王族の象徴である黄色と 赤の豪華なマントや三日月形の羽の装飾が施されたヘルメット、上品な フェザーレイ、羽毛で覆われた神像などがある。

カハイリマヌというフェザーワーク工房を手がける親子のレフアナニ さんとカイマナ・チョックさんは、伝統的な手法でフェザーレイと帽子に つけるハットバンドを作っている。二人は、先祖代々伝わるハワイアンの 芸術を今日へと受け継ぐ数少ないフェザーワーク職人である。

「フラを踊っていた私は16歳のとき、レイの作り方を習いました。その 素晴らしさに魅了されて以来、ずっと作り続けています」とレフアナニさ んは言う。彼女のハラウ(フラスクール)の誰もがメリーモナークフェス ティバルに出場するため、自ら身につけるレイ一式を手作りしなければ ならなかったのだそうだ。レイ作りは、フラへのコミットメントと献身の 証でもある「。私が結婚した時、夫の祖母は、彼女の姉妹たちと一緒に 私たち二人のためにレイを作ってくれました。姉妹が亡くなると、彼女た ちの持っていたフェザーレイを全て私に譲ってくれたのです。祖母はフ ェザーレイ作りの伝統が途切れることのないよう、私に受け継いでほし いと願っていました」と語った。

ハワイ文化への関心が高まっている今日、フェザーアートに興味を持 つ人も増えているという。カイマナさん曰く「、一時はフェザーレイを作 る人の数がほんの一握りになったこともありましたが、今では復活の兆 しを見せています」。レフアナニさんは、パールシティの自宅でフェザー レイ作りのレッスンを開催している。女性が大半のグループが週一回2 時間のクラスに集まり、細かい縫い目を繰り返す時間のかかる作業に 熱心に取り組んでいる。

チョック家の自宅には、膨大な時間を費やして手作りされたフェザーワークの作品がところ狭しと飾られている 。そこには王族の象徴である 「カヒリ」とよばれる羽飾りのついたポールや帽子につける「ハクパパ」 というハットバンド、羽を平らに寝かせたデザインの「レイ・カモエ」と羽を立ち上げてふわふわに仕上げた「レイ・ポエポエ」の2種類のフェザー レイなどがある。昔は絶滅種あるいは絶滅に瀕した鳥たちの羽が使用 されていたフェザーレイに、現在では、アーモンドのような模様のキジ の羽や、鮮やかな孔雀の羽が使用されている。チョック家では、自宅で 飼っている鶏の羽を使うこともあるという。

ナヒエナエナ王妃がパウを贈られた頃のフェザーワークはその材料 こそ変わったものの、作り方は昔と変わらない。「先祖代々伝わる方法 で今も作り続けています。フェザーレイ作りは、本から学ぶのではなく、 先祖から習い、人から人へ伝えていくものです。僕にとっては、それが本 当の意味でのハワイアンの伝統なのです」とカイマナさん。

一枚一枚の羽を処理し、切って、結びつけたり、縫い付けたりする一 連の工程が今も全て手作業で行われるフェザーワークには、目的と意 識を持って作業する作り手の心が込められてる。

「古くからのハワイアンの間では、体に身につけるレイには、その人のマ ナやエネルギーが自然に入り込むと考えられています。手作りしたレイ に作り手の心がどれだけ込められているか考えてみてください。1000 枚の羽を一枚ずつ結んでは3針縫ったり、糸を3回巻いたりする作業を 繰り返すのですから」とカイマナさんは言う。レフアナニさんは「自分で 作ったレイを人に贈るということは、あなた自身の一部を捧げているの と同じなのです」と加えた。

マルザン氏によれば、今日のフェザーワークが意味するものは以前と は違っているという。ネイティブ文化に根付くこれらの芸術は、昔は王 族とその側近を象徴する視覚的なシンボルであった。マルザン氏は「今 日のフェザーワークは、伝統文化を守るために受け継がれるべき芸術 として、ハワイの人々のコミットメントのシンボルとなっています」と説明 する。「制作に多くの時間やエネルギーを費やすことで、色々なことを感 じ、考え、見えてくるプロセスこそが大切なのです」。フェザーワーク職 人たちが伝統を受け継ぎ、讃えることに今も変わりはない。ただ昔と違 うのは、それが一部の特別階級の人たちのためではなく、すべての人た ちのためであるということなのだ。

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バーニース・パウアヒ・ ビショップ博物館に展示され ている羽でできたカラニオプウ のアフウラ(マント)。400万本 の羽毛でできている。

Red-orange and yellow feathered helmet from Hawaii

カラニオプウの使用したマヒオ レ(ヘルメット)。

時を超えた羽

シーズン3エピソード3
エピソードを見る

鳥の羽を使ったフェザーワー クは、初期のハワイ入植者たち が古くからあるポリネシアの島 々から持ち込んだ。

今日、カハイリマヌの文化継承者が作るレイには、キジや孔雀、鶏など の羽が使われている。

カハイリマヌのクム(講師)のレフアナニ・チョックさんは、伝統的であり ながらモダンなデザインのハワイアンフェザーレイ作りを教えている。

マモやオーオー、イイヴィといっ た鳥の羽は熟練した捕獲者た ちによって集められた。バーニー ス・パウアヒ・ビショップ博物館 にある写真右のレイには、ハワ イ島のマモの黄色の羽が使用 されている。すでに絶滅している 黒いミツドリのマモの翼の下側 に生えている鮮やかな黄色をし た小さな羽の房は、最も希少な 羽のひとつである。

バーニース・パウアヒ・ビショッ プ博物館のコレクションには、 王族の象徴である黄色と赤の 豪華なマントや上品なフェザー レイなどがある。

「先祖代々伝わる方法で今も作り続けています。フェザーレイ作りは、本から学ぶのではなく、先祖から習い、人から人へ伝えていくもので す。僕にとっては、それが本当の意味でのハワイアンの伝統なのです」
— カハイリマヌのレイ・フル職人のカイマナ・チョックさん

バーニス・パウアヒ・ビショップ博物館の文化顧問、マルケス・マルザン 氏とカウアイの酋長のものであったとされる羽でできたマント。

フェザーレイには、羽を立たせてふんわりと仕上げた「レイ・ポエポエ」と羽を平らに寝かせたデザインの「レイ・カモエ」がある。写真はカハイリマヌ製作の作品。

親子のレフアナニさんとカイマ ナ・チョックさんは、先祖代々伝 わるハワイアンの芸術を今日へ と受け継ぐ数少ないフェザーワ ーク職人である。

上向きの羽を使った珍しいデ ザインのマント。この世に一つ しかない。

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