生け花の作品
花のカタチ

ハレクラニの安らぎの空間を華麗に彩るいけばな

ジュリー·ザック
写真
ケナ·リード

ハレクラニの正面玄関から中へ入ると、ロビーの中央にイタリア製大理 石のブロックを垂直に積み上げた彫刻が迎えてくれる。吹き抜ける風に 耐えられるようデザインされているこの芸術的なオブジェには、ここ数 十年間にわたり、真紅のアンセリウムや深緑色の葉、茶色の枝や前に突 き出したオレンジ色のハンギング·ヘリコニアといった草月風のいけば なを取り入れた美しいフラワーアレンジメントが毎週活けられている。

生きた花や植物を活けて鑑賞する日本の芸術、「いけばな」。仏教が 日本に伝来した6世紀頃、仏壇に献じられた供花が始まりとされてい る。それ以来、華道の芸術は、様々なスタイルが生まれては衰退しなが ら進化を遂げ、体系化されたルールのある何百もの流派が生まれた。 伝統的な生け花には厳格なルールがある。昔からある流派では、今で も天地人の3つの枝で花型の格を作る古来からの様式に従っていると ころもある。

草月流のいけばなは、形式にとらわれない自由なスタイルで知られて いる。勅使河原蒼風(てしがはら·そうふう)氏は1927年、個性と創造 性を重視した草月流いけばなを始めた。芸術家として活躍していた勅 使河原氏にとっていけばなとは、誰もがいつでもどこでも楽しむことのできる芸術であった。勅使河原氏は、いけばなに使う材料は自由に好き なものを選んで、形式や場所に制限されるべきではないと考えていた。 草月流のいけばなは慣習にとらわれることなく、個人ののびやかで自由 な表現を求めるものである。

「いけばなで大切なのは、線と色、そして調和と動きです」と言うの は、1984年からハレクラニで草月流いけばなを活けてきたタンガ·カメ モトさんだ。90代のカメモトさんは、短くウェーブのある茶色の髪をし た小柄な女性だ。日本で生まれ育った彼女は、そこで生け花を学び、若 干20歳で草月流いけばなの師範の免状を取得し、華道家の勅使河原 蒼風氏から「タンガ」という雅号を授かる。ハレクラニのフラワーアレン ジメントを担当し始めた頃にはすでに最高位の一級師範証を持つ一流 のいけばな師範であった。

2004年に引退してからもホテルのスタッフの多くは彼女のことを覚 えていて、彼女が訪れると「ミセスカメモト」と呼んでは温かく迎える。彼 女と夫のキヨシさんは、20年にわたりハレクラニのロビーに欠かせない 存在であった。夫婦は決まって毎週金曜にハレクラニを訪れ、カメモト さんは新しいアレンジメントの制作に取り掛かる。キヨシさんは重い枝 を持ち上げるなどして彼女を手伝った。キヨシさんは2008年に他界しているが、カメモトさんの花の芸術を収めた、時代を感じさせないロビ ーの大理石彫刻をデザインしたのも彼である。

引退前、タンガ·カメモトさんはボランティアとして、草月流のいけばな の基本をハレクラニ·フラワーショップのスタッフに伝授した。フラワーシ ョップのマネージャーのアイリーン·バカニさんは、カメモトさんからそ の技を学んだ一人だ。師範のカメモトさんをはじめ、これまでに草月流 を習った人たち同様、バカニさんにとって花を活けることは芸術表現そ のものだという「。フラワーアレンジメントは、作り手の心から生まれるん です」とバカニさん。

これらの生きた花の芸術を作るためには、質の高い新鮮な材料を使 うことが何より大切、とカメモトさんとバカニさんは口を揃える。ハレク ラニで使用する花は、ハワイ島、オランダ、南アメリカなどから仕入れ、 ホテルの敷地内で育っている植物を使うこともある。例えば、ハレクラ ニの歴史とともに歩み、今ではハウス·ウィズアウト·ア·キーの傍に横た わってなお生き続けているキアヴェの木から出ている枝を使うことも ある。美しさと動きを最大限に引き出すため、全ての要素を十分に考慮 し、一本一本丁寧に活けていく。草月流いけばなを活けるためには、「そ れぞれの花の使い方を知る必要がある」とカメモトさんはいう。

草月流いけばなは、活ける人の心の表れであるがゆえに集中力を必 要とする。バカニさんは気が散らないよう、人気の少ない朝の6時から 8時までの間にアレンジメントを作るようにしている。日頃からアレンジ メントに使えそうな木の枝や葉などを集めたりと、いけばなが頭から離 れることがないというバカニさん「。このように自然の中にある材料を生 かし、自分たちの気持ちを表現しながら『美』を作り上げるのです」と語 る。色、日持ち、質感など、各植物の性質や特徴を見つけて、それを生か すことで、常に新しいことを学んでいるのだという。

ハレクラニのロビーに飾られた花には、静けさの中にも動きがあり、 伸びやかな線の一本一本が正確に配置されている。キヨシさんが妻の 芸術を生かすために心を込めて作った彫刻の魅力を味わってほしい。 ロビーのフラワーアレンジメントは毎週変わるが、そこには常に芸術家 の心意気が感じられる。

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生け花の作品

ハレクラニホテルの生け花

生け花の作品

花を活ける芸術

ハレクラニのフラワーショップを 経営し、マサコ・カメモトさんか ら生け花を習ったアイリーン・バ カニさん。

生け花には、ハワイ島やオラン ダ産の生花が使用されているほ か、敷地内に横たわるハウス ウ ィズアウト ア キーのキアヴェの 木の枝なども素材として用いら れている。

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