大自然に飛び込もう

ハワイの魅力あふれるハイキングコースの情報が満載のナ・アラ・へレ。このガイドツアーのお気に入りのトレイルを旅しよう。

ピーター・ケアリイ・ソーン
写真
メーガン・スズキ

ハワイではいつどこにいても、辺りを見回せば山と海の方角が一目で分かる。そそり立つコオラウ山脈の緑の尾根とどこまでも続く青くまばゆい太平洋に挟まれたコンクリートの街、ホノルルにいればなおさらだ。
ホノルルの都会に住む人たちは、息抜きで行楽に出かけたければマウカ(山側)もしくはマカイ(海側)へと向かう。私のように森の木陰を好むタイプは、タンタラスと呼ばれる山岳地帯に住んでいたりする。タンタラスには森の中を気軽に散歩したり、一日中アドベンチャーを楽しむことのできる複数のトレイルが張り巡らされているからだ。
この地域を構成する3つのプウ(丘)、オヒア、カケア、ウアラカアは、約10万年前のコオラウ火山の最後の噴火活動によって形成された。何百年も休止状態だったコオラウが目覚め、マグマがあちこちから吹き出した。その噴火岩が固まってできたのが今日のタンタラスを形成しているプウだ。このホノルルの火山活動の活発化で形成された象徴的な地形に、レアヒ(ダイヤモンドヘッド)、コヘレペレペ(ココクレーター)、ハナウマ湾などがある。
これらの噴火は、大地を肥沃にしてくれた。西暦1,000年頃、世界一優れた航海術を持つ海洋民族がハワイ諸島に到達し、動植物に溢れていることを発見した。彼らは島に定住し、プウ・ウアラカアの頂上ではウアラ(サツマイモ)や、マノア渓谷ではカロ(タロイモ)といった作物を栽培した。やがてヨーロッパの探検家たちがハワイを発見し、家畜が持ち込まれ、それらの動物が柵なしで森の中を自由に歩き回るようになった。森林では、値打ちの高いハワイ固有のイリアヒ(ビャクダン)が輸出のために伐採され、1870年までにはかつて森林に覆われていたプウは不毛の地と化していった。井戸は乾き、小川には泥水が流れた。「ハハイ ノ カ ウア イ カ ウル ラアウ」(雨は常に森に続く)というハワイ先住民の知恵は忘れ去られてしまったかのようだった。やがて島が水危機に陥いると、その対策としてハワイ政府は1876年から1880年にかけてさらなる開発から森林を守る法律を可決した。これが大規模な植林活動のきっかけとなる。
1988年にハワイ州は、森林の中を曲がりくねるトレイルへのアクセスを確保し、開発による森林破壊から守るためにトレイル&アクセスプログラム「ナ・アラ・ヘレ」を立ち上げた。今日、このプログラムはオアフ島内の計125キロにおよぶトレイルを管理している。ナ・アラ・ヘレのトレイルはきちんと解説がされていて、アクセスも合法なので安心だ。午後のハイキングを楽しむのにブログを検索する必要も罰金を課される心配もない。
私がよく行くナ・アラ・ヘレのトレイルのひとつに、マノア・クリフ・トレイルがある。森の中でアドベンチャー気分を味わいたいときにもってこいだ。トレイル入口のある道路の路肩に駐車できるのでアクセスも便利で、歩き出してから15分以内に、トレイル脇の切り立った崖からマノア渓谷の静かな街並みを垣間見ることができる。
このハイキングコースの最初の部分で目にする植物は、分水界を守るためにオアフ島に持ち込まれたものがほとんどだ。1930年代の植林活動のピーク時には、年間200万本近くの木が植えられた。残念なことにこのとき選ばれた樹木はネムノキやイチジク科といった成長の早い非在来種であったため、多様性に乏しく木々がまばらな森になってしまった。さらに森の奥へ進むと、侵略的外来種の野生ブタから​​在来植物を保護するために建てられたゲートにたどり着く。中に足を踏み入れると、植生の劇的な変化に気づかされる。その先の森には、多層で多様な種類の植物が茂る豊かな生息地が広がっている。献身的なボランティアグループが2006年以降、外来種を除去し、固有植物の植樹に取り組んでいるのだ。ここでハイキングしているとオアフ島に最初に足を踏み入れた人類の気分すら想像することができる。
トレイルは修復エリアの真ん中で分かれていて、そこから上に向かうプウ・オヒア・トレイルを進む。ゲートで囲われた在来種の生息地を出て竹の茂みに入り、少し登るとプウ・オヒアの頂に出る。その横の山頂には電波塔がそびえ、この場所にかつて溶岩が噴き上げていたとは想像し難い。プウ・オヒア・トレイルをそのまま歩き続け、下り坂を降りると車を駐めた道路に戻る。
人工的な光景に戻ると違和感を覚える。都会での生活にはストレスがつきものだ。ホノルルは現実逃避できる緑地に恵まれている。伐採され、植樹され、保護されてきた森林。今日、ハワイの森林は島の帯水層をリチャージするメカニズムである以上に、 「森林は神聖なものである」というネイティブハワイアンの人々が今も抱く畏敬の念に触れられる場所でもある。それは“ワオ・アクア”と呼ばれる神々の領域だ。この惑星に住む人間であることの意味を感じるため、私たちは今日も森に飛び込んでいく。

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ハワイ州のナ・アラ・ヘレ・トレイル&アクセスプログラムは、オアフ島にある計124キロのトレイルを管理している。

ホノルルの緑地は、都会の喧騒から離れることのできる憩いの場だ。

2005年、ボランティアはナ・アラ・ヘレを通じて、マノアクリフトレイルの6エーカーの区画で在来植物の栽培と保護を行う許可を取得した。

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